脳梗塞の治療は、時間との戦いです。
発症してから早い時期に血栓の治療を受ければ、症状がすっかり治ってしまうこともある一方で、様子をみているうちに梗塞が完成してしまい、重い後遺症を残すこともあります。
脳梗塞の前兆に気づき、一刻も早く病院を受診したいものです。
はっきりした症状があれば分かりますが、思ってもみない症状が、脳梗塞の前兆である可能性もあります。
ここでは、眠気が脳梗塞の前兆となる可能性があることについて、解説していきます。
脳梗塞の前兆、TIA(一過性脳虚血発作)
脳梗塞とは、脳の血流が途絶えてしまい、その先の神経が障害を受ける病気です。
脳梗塞の前段階として、一時的に血流が低下して症状が出現するものの、その後血流が再開して元に戻る状態があります。
それが「一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack)」、略して「TIA」です。
TIAとは、日本脳卒中学会の声明によれば「局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性のエピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること」と定義されています。
TIAは、短時間で回復するため、なんとなく様子を見てしまいがちです。
しかし、実はTIAを起こした方は、90日以内に15〜20%の方が脳梗塞になるとされています。
そのうち、約半数は48時間以内に脳梗塞を発症。
このことからも、TIAは血流が途絶える寸前の、危険な状態を示していることが分かります。
TIAにも種類がある。めまいや眠気が起こるTIA
TIAでは、以下のような脳梗塞に典型的な症状が出ることが多いです。
・片側の手足が脱力、麻痺する
・ろれつが回らない
・顔の半分が垂れ下がる など
また、突然目で見えている視野に黒い点が出現して、視野の一部が欠損する「黒内障」と呼ばれる症状が出ることがあります。
症状の持続時間はまちまちですが、あくまで一過性で、自然に回復するのがTIAです。
これらの症状は、内頚動脈系のTIAと言われ、頚部にある「内頚動脈」という太い血管から続く血流が、何らかの原因で阻害を受けることで発生する症状と考えられています。
TIAの80〜90%は、内頚動脈系のTIAです。
頚部を通って脳に行く血流は、内頚動脈を通るものだけではなく、別の経路もあります。
その経路から続く血流が障害されるのが「椎骨脳底動脈系TIA」です。
椎骨動脈から脳底動脈を介して脳に到達する血流は、脳幹や小脳、大脳の後部など、機能的に異なる部位を栄養しています。
そのため、椎骨脳底動脈系TIAは、多彩で複雑な症状を引き起こすことが知られています。
運動障害が起きることもありますが、ときに右側から左側に変化したり、感覚障害もさまざまな場所に起きたり、といった具合です。
小脳の障害で、めまいやふらつき、平衡障害などの症状が出やすい特徴もあります。
そして、この椎骨脳底動脈系TIAでは、眠気を起こしやすいことが知られています。
もちろん、ちょっと眠気を感じるだけで、TIAかな?と心配する必要はありません。
しかし、普段にない異常な眠気を感じる場合や、運動障害・感覚障害・めまいなどを伴う場合は、脳梗塞の前兆として要注意と考えた方が良いでしょう。
日中の眠気に要注意!睡眠時無呼吸症候群と脳梗塞
日中に眠気を感じる病気が、寝ているときに呼吸が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」です。
睡眠時無呼吸症候群については、これまでに数多くの研究が行われ、以下の病気のリスクとなることが知られています。
高血圧、心筋梗塞、狭心症、糖尿病
そして、脳梗塞の独立した危険因子であることも明らかとなっているのが特徴です。
睡眠時無呼吸症候群では、無呼吸の間に体は酸素が足りない状態となり、呼吸が再開すると、急に体に酸素が行き渡るということを繰り返しています。
この低酸素→再酸素化の繰り返しが酸化ストレスとなり、それにより血管の炎症や交感神経活動の亢進をもたらします。
そのまま年単位で同じ状態が続くと、高血圧や動脈硬化を来たし、その結果脳梗塞を発症する危険性が高まるということになります。
睡眠時無呼吸症候群の方は肥満であることも多く、動脈硬化など脳梗塞のリスクをもともと抱えているケースが少なくありません。
相乗効果で危険性が高まっている状態といえます。
慢性的に日中眠気を感じている方、家族に大きないびきを指摘された方、もしかしたら脳梗塞の危険が迫っているかもしれません。
早めの専門医の受診をおすすめします。
まとめ
眠気と脳梗塞になる危険性の関係について、TIAと睡眠時無呼吸症候群の観点から、解説しました。
眠気は日常的に感じうるものであり、病的なものと認識するのは難しいかもしれません。
少しでも思い当たる方は、正しい知識を持って対策していきましょう。