せん妄とは?脳梗塞との関係性を解説

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せん妄とは?

皆さんは「せん妄」という言葉を聞いたことがありますか?

病院で働く医療関係者であれば、日常的に接することの多い言葉ですが、一般的にはそこまで知られていないかもしれません。

せん妄というのは、医学的疾患や手術・けが・薬物などにより引き起こされる、精神や行動の障害のことを指します。

数時間~数日のうちに注意障害や認知障害を発症し、以下の症状が出現します。

・現在の日付や時間、今いる場所が分からない
・不安になり大声を出してしまう
・昼間寝ていて夜大騒ぎしてしまう など

一日の中でも症状が強く出現するときと、そうでもないときがあるなど、日内変動があるという特徴があります。

認知症や高次脳機能障害などの疾患と似た症状を示しますが、認知症などでは一度失われた機能を取り戻すのは難しい一方で、せん妄の場合は一過性で、原因疾患の治療などにより改善するという違いがあります。

原因となる医学的疾患にはさまざまなものがあり、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患がせん妄の原因になることがあります。

脳梗塞がせん妄の原因に?

せん妄になる原因は、はっきりと解明されているわけではありませんが、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れたり、神経同士のつながりが障害されたりすることで発症すると言われています。

脳の状態に影響を及ぼす原因として、大きく3つ考えられています。

第一に、手術やけが、感染症など体に負荷がかかったとき、自分の体を守ろうとするために、脳内のサイトカインが急に増加することが挙げられます。

手術後や疾患治療のため安静を保たなければいけない状況などでは、せん妄が大きな問題となります。

二つ目は、抗コリン薬やパーキンソン病治療薬、ステロイドなど薬剤による影響です。

そして、最後に挙げるのが、脳梗塞や脳炎、脳腫瘍などにより脳内の神経伝達物質の合成や分泌が低下してしまうことです。

種々の疾患により脳の神経細胞の働きが低下し、脳内のバランスが崩れてしまうことで、せん妄になってしまうのです。

脳梗塞によるせん妄の問題

脳梗塞によるせん妄の何が問題なのでしょう?

永続的に症状が続く認知症や高次脳機能障害と異なり、一時的なものであると聞くと、たいしたことないと軽く考えてしまうかもしれません。

しかし、せん妄になってしまうと大きな問題があります。

それは、せん妄になると自分がどこにいるかわからなくなってしまうので、病院で治療中であることすらも忘れてしまうということです。

脳梗塞を発症した当初は、脳の障害を最小限に抑えるため、安静にすることが欠かせません。

また、点滴から血栓を溶かす薬剤を使用したり、脳の腫れを抑える薬を使用したりします。

せん妄になってしまうと、自分を治療してくれる医師や看護師のことを認識できず、治療に抵抗してしまったり、安静を保てずに点滴を自分で抜いてしまったりという事態が起こりえます。

実際、多くの研究により、せん妄を発症した患者さんは、発症しなかった患者さんよりも死亡率が高いこと、せん妄になっている期間が長いほど生命予後が悪くなる可能性があると指摘されています。

さらに、病院で患者さんがせん妄になってしまうと、以下のように患者さんや家族に負担を与えるだけでなく、医療者や他の患者さんに影響を及ぼします。

・看護師やスタッフがそこにかかりきりになり、他に手が回らない
・大声を出してしまい他の患者さんに影響する など

せん妄を発症させないこと、もし発症してしまった場合には、早く発見して、せん妄の期間をできるだけ短くするように努めていかなければなりません。

脳梗塞とせん妄の治療・予防

せん妄は、脳梗塞の患者さん全員に起こるものではなく、いくつかの要因が重なることで発症すると考えられています。

発症前の要因としては、以下が挙げられます。

・高齢である
・認知症である
・うつ病やせん妄になったことがある
・アルコール依存 など

それらの要因を持った方が脳梗塞を発症し、入院など急な環境の変化や、安静を強いられることなどによる身体的ストレス、心理的ストレス、また睡眠リズムの障害などの要因が重なると、せん妄を発症するリスクが高まります。

もともとリスク要因を持った方では特に注意し、せん妄の発症に早く気づくことが治療として重要です。

せん妄の症状には興奮する・暴れるなど過活動型と言われる症状を示す方もいれば、低活動型と言われる、反応が鈍い・無気力などの症状を起こす方もいます。

低活動型では、発症に気づきにくいので注意が必要です。

せん妄を治療するには、原因となった疾患に対する治療をまず行います。

脳梗塞に対する治療として、抗凝固薬などを使用し、症状の進行や再発を防ぐ治療を行います。

興奮状態が続き安全が確保できない場合には、抗精神病薬などを使用して落ち着くようにすることもあります。

そのほか、以下のような薬物に頼らない治療も重要です。

・患者さんが落ち着ける環境を用意する
・時計やカレンダー、家族の写真を部屋に置いておく
・リハビリテーションを行い、睡眠・覚醒のリズムを取り戻す など

まとめ

せん妄と脳梗塞の関係について解説しました。

脳梗塞の治療をしっかりと行い、後遺症をできるだけ少なくするためにも、せん妄に対する早期発見・早期治療が重要です。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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