摂食・嚥下障害とは、食べ物をうまく食べられなかったり、飲み物をうまく飲み込めない状態のことをいいます。
脳卒中では、急性期には嚥下障害を7割程度で認めるとされています。
食事の大切さ
私たちは毎日食べ物を食べたり飲んだりしています。
ストレス発散に友達とおいしいものを食べたり、日々のご褒美として高級なお店に行ってみたりされる方も多いでしょう。
食事は生命維持には欠かせませんが、それだけでなく、ひとつの楽しみとなっている場合も多いのです。
食べ物が食べられない、飲み物が飲めないとなると、脱水や低栄養など身体にも影響が出るのはもちろんのこと、食事自体がストレスに感じてしまい、心の不調をきたしてしまう場合もあります。
摂食・嚥下とは
摂食・嚥下は、食べ物を認識してから、口を経由して胃の中へ送り込む一連の動作のことです。
この摂食・嚥下の過程は、5段階に分けられています。
先行期
目で見て食べ物を認識する
準備期
その食べ物を口から入れ、咀嚼する
口腔期
舌や頬を使い、食べ物を口の奥からのどへ送る
咽頭期
脳にある嚥下中枢からの指令で、食べ物を食道へ送る
食道期
食べ物を胃へ送り込む
摂食・嚥下障害とは、この5段階のどこかが障害がされている状態です。
摂食・嚥下障害を引き起こす原因は、脳梗塞だけではありません。
食道がんなどの疾患でも、摂食・嚥下障害は引き起こされます。
病気ではなくても、高齢になるにつれて、歯の喪失などにより咀嚼能力(噛む力)はどんどん低下していきます。
すなわち、準備期~口腔期の障害をもたらします。
脳梗塞では、嚥下に関する筋肉を支配している神経が麻痺してしまうことがあります。
この場合は、口腔期や咽頭期に障害が生じます。
しかし脳梗塞の場合は、それだけでなく、先行期や準備期にも障害が生じることもあります。
摂食・嚥下障害による問題
摂食・嚥下障害により引き起こされる問題とはなんでしょうか?
単に食事が食べれない、ということが問題なのではありません。
食事や水分を摂ることができないと、低栄養や脱水を引き起こします。
また、脱水を引き起こすということは、脳梗塞の再発リスクが高くなるということです。
他にも、食べ物が喉に詰まってしまう窒息や、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまい肺炎を引き起こす可能性があります。
嚥下障害の評価方法
嚥下障害の検査
病院によっても評価の仕方は異なるかと思いますが、一般的には、まず問診やスクリーニング検査を用いて嚥下障害を評価することが多いかと思います。
病院に言語聴覚士(ST)がいれば、主にその方が評価をしてくれるかと思います。
言語聴覚士は、評価を行うだけでなく、言語障害や嚥下障害に対するリハビリも行ってくれます。
よく行われる検査として、反復唾液嚥下テスト(RSST)や改訂水飲みテスト(MWST)があります。
これらは特別な機器などを使いませんし、またリスクの少ない検査法です。
反復唾液嚥下テスト(RSST)
反復唾液嚥下テスト(RSST)とは、口腔内を湿らせたあとに空嚥下を30秒繰り返してもらうことで、嚥下機能を評価する方法です。
2回以下のときは、問題ありとします。
改訂水飲みテスト(MWST)
改訂水飲みテスト(MWST)とは、冷水3mlを嚥下してもらい、嚥下やむせの有無、呼吸変化などをもとに、嚥下機能を評価する方法です。
言語聴覚士とは
言語聴覚士とは、どういった職業なのでしょうか?
言語聴覚士は、1997年に国家資格となった比較的新しいリハビリテーションの専門職です。
専門学校や大学などで所定の過程を修了し、国家試験に合格しないと言語聴覚士にはなれません。
言語聴覚士は、話すこと・聞くこと・食べること・飲み込むことのスペシャリストです。
嚥下障害や言語障害の検査や評価を実施し、必要に応じて訓練、指導、助言などの援助を行ってくれます。
入れ歯は必要か
脳梗塞を発症して入院することになり、嚥下訓練や食事が開始になる場合は、ご自宅から入れ歯を持ってきてください。
入れ歯をすることで、かえって誤嚥のリスクが高まる場合もありますが、入れ歯があった方がよい場合もあります。
入れ歯を使用するかどうかは、言語聴覚士が評価してくれます。
もし入れ歯を使用しない場合は、紛失のリスクがありますので、ご自宅に持って帰っていただいた方が安心です。
嚥下訓練
嚥下訓練も、身体のリハビリと同様に、発症早期から訓練を行った方がよいとされています。
しかしながら、日本では言語聴覚士の数がまだ少なく、嚥下訓練の開始が遅れてしまうこともあります。
また、嚥下訓練は保険点数が低く、医療機関が積極的に嚥下障害に取り組みにくいという現状もあります。
胃ろう
経口での食事摂取が十分でない場合には、他の方法で栄養や水分を補う必要があります。
点滴や経鼻胃管(鼻から胃に管を入れる方法)、そして胃ろうがあります。
短期間の場合には、点滴や経鼻胃管でもよいのですが、長期間になってくると、胃ろうが一般的です。
それぞれの治療法にメリットやデメリットがあります。
点滴(末梢点滴)
静脈炎や点滴漏れなどのリスクがあり、長期管理には向きません。
また、施設入所される予定であれば、点滴があると入所できない、といったところもあります。
経鼻胃管
以下がデメリットとして挙げられます。
・認知症などがあると自分で抜去してしまう
・定期的な入れ替えがあり苦痛を伴う
胃ろう
長期間の管理で考えると、胃ろうは痛みや身体への負担も少なく、安全に栄養や水分を摂取することができます。
ただし、胃ろうにもデメリットは存在します。
胃ろうの増設には手術が必要ですし、胃瘻造設後に皮膚のトラブルがみられる場合もあります。
半年に一度程度、胃ろうのカテーテルの交換もしなければなりません。
どの方法を用いるかは、主治医とよく相談して決定してください。
ここに挙げたメリットやデメリットは一部です。
胃ろうを増設しても、無理のない範囲で口から食べるということは、病状によっては可能です。
やはり食事は楽しみのひとつでもあると思うので、できるだけ口から食べたいですよね。
こちらも主治医とよく相談してください。
ただし、口から食べるということは窒息や肺炎を引き起こすリスクもあるということも頭に入れておいてください。