再生医療は、日本の将来の大きな成長産業として期待されている分野です。
現在までに承認されている製品だけでなく、iPS細胞などの多能性幹細胞活用を含めた将来的な市場は、2012年時点の90億円規模から、2030年には約1兆円規模に、2050年には2.5兆円規模に拡大すると、予想されているそうです。
今日は、新たに承認を目指し、実用化間近となった再生医療製品である「sb623」について紹介します。
sb623とは
sb623とは、サンバイオ社が開発した「再生細胞薬」の名前です。
再生細胞薬というのは、聞き慣れない言葉ですね。
再生医療に使うのは細胞、というイメージがあると思います。
では、細胞薬とは細胞なのか?薬なのか?
答えは、sb623は細胞です。
骨髄の中にある間葉系幹細胞を採取して、加工・培養したものを、凍結保存しておきます。
解凍して使用することができるので、必要なときに用意することができます。
自分の細胞では、培養に数週間かかりますので、こうはいきません。
sb623は、加工の過程で、一過性に遺伝子を導入します(培養の過程で遺伝子はいなくなります)。
その際に、細胞には再生を促すさまざまな物質を出す性質が備わります。
さらに、免疫応答反応を抑制する作用があるため、他人の細胞でも移植することができます。
まるで人の体を治す薬剤のように使用することができるため「細胞でできた薬」というわけです。
sb623の作用メカニズムと投与方法
sb623は細胞ですが、実は脳に移植すると1ヵ月程度で脳内から消滅することが分かっています。
移植されたsb623細胞が、自ら神経になって定着するということではありません。
sb623は、脳に移植されると、細胞を保護する栄養因子を分泌し、細胞が増殖する場所となる細胞外マトリックスという成分を産生します。
炎症を抑制し、血管を新たに作ることで、栄養が行き渡りやすくなります。
sb623は、周囲の細胞を手助けする役割を担っています。
そして最も重要なのは、脳に元々ある、神経のもとになる細胞(幹細胞)を引き寄せる効果があることです。
脳梗塞や脳の損傷のあとに、病変部位までたどり着かなかった幹細胞が、sb623を投与することで損傷部位までやってくることができます。
そして神経の再生に寄与するということになります。
sb623は頭の骨に1cm程度の小さな穴を開けて、そこに挿入されたカニューレを通して投与されます。
量にすると300μl(0.3cc)のわずかな量ですが、そこに100万~1000万個の細胞が含まれています。
sb623の最新情報と今後の実用化
sb623は、これまでに主に外傷性脳損傷の慢性期と、脳梗塞に対して治験が行われてきました。
脳損傷、脳梗塞とも、慢性期に入ってしまうと、後遺症の改善を望むことは難しくなります。
しかし、日米共同で慢性期外傷性脳損傷の患者さんに対して「ランダム化二重盲検試験」という精度の高い方法で試験を実施したところ、有効性と安全性が確認されました。
「STEMTRA試験」と名前がついたこの試験の結果はインパクトがあるもので、米国のNeurologyという権威のある雑誌に掲載されました。
この結果を受けて、脳損傷に対しては次の段階として、承認申請から販売実用化というステップに進もうとしています。
sb623は、厚生労働省より再生医療製品として「先駆け審査指定制度」の対象品目となっており、通常よりも短い審査での承認が見込まれているため、まさに実用化一歩手前となっています(2020.12月の段階では2021年1月に予定していた承認申請が延期された、という情報となっています)。
また、脳梗塞に対する治験結果は、2019年に発表され、このときには有効性が認められなかったという結果であり、これはこれで大きなインパクトを与えました。
株式の業界では、サンバイオ・ショックなどと呼ばれているようです。
しかしその後の追加解析で、有効性を示す傾向があることが分かり、サンバイオ社は今後も脳梗塞に対する治験を準備していく方針を明らかにしています。
国内では脳出血に対する臨床試験も準備され、また以下の疾患に対しても、基礎研究や非臨床研究が行われています。
・加齢黄斑変性
・網膜色素変性
・パーキンソン病
・脊髄損傷
・アルツハイマー病
今後の試験結果、研究結果が期待されます。
まとめ
再生医療のひとつの形である、再生細胞薬「sb623」について紹介しました。
再生医療にもさまざまな形があり、疾患や個人によって、最適な治療法が異なると思われます。
臨床試験や研究が進むことで、再生医療の手法が最適化されていきます。