脳梗塞の症状のひとつに、意識障害があります。
脳が障害される場所によって、半身麻痺や言語障害などの症状が出るのですが、重度の場合は意識障害が出現します。
この意識障害について、正しく理解していきましょう。
意識障害とは
意識とは
そもそも意識とはなんでしょうか?
意識は、意識レベル(覚醒度)と認識機能の2つの要素で捉えることができます。
意識レベル
自分自身や周囲からの情報・刺激に対して注意が保たれ、目が覚めていること
認識機能
自分自身や周囲の環境を認識すること
このどちらか一方が障害された場合、または両方とも障害された場合を、意識障害といいます。
覚醒中枢は脳幹網様体賦活系に、認知中枢は大脳皮質というところに存在しています。
意識レベルが低下すると
意識レベルが低下すると、傾眠(軽い刺激を与えると覚醒するが、刺激がなくなると睡眠状態になる)状態になります。
さらに意識レベルが低下すると、刺激を与えても目を開けなかったり、手足の反応も悪くなっていったりします。
認識機能が低下すると
認識機能が低下すると、目は開けているものの、せん妄や錯乱といった精神活動の興奮を伴った状態となります。
意識障害は回復するのか
意識障害が回復するかどうかは、脳梗塞の大きさや頭の腫れの状態によって変わってきます。
脳梗塞の発症直後の状態は、脳全体が腫れています。
この腫れは1~2週間がピークとされており、徐々に腫れはおさまっていきます。
完全に腫れがひくのは数か月後です。
腫れがひくまでは、意識が回復する可能性が残っています。
意識が戻らない場合
頭の腫れがひいても、意識が戻らない場合もあります。
残念ですが、意識の戻らない状態だと、平均余命は数年、長くても10年程度です。
年齢や他の疾患、また脳梗塞の再発などにより余命は大きく違ってきます。
ご家族にとっては、この期間はとても辛い期間になるかと思います。
また、金銭的な負担もかかります。
高額療養費制度などを賢く利用しましょう。
高額療養費制度について
高額療養費医療制度とは
高額療養費医療制度とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額を超えた分があとで払い戻される制度です。
上限額は、年齢や所得に応じて定められています。
入院診療・外来診療共に「認定証」などを提示すれば、月ごとの上限額を超える分を窓口で支払う必要がなくなりますので、ご希望の方は認定証を入手してください。
高額療養費医療制度の支給申請の仕方
加入している公的医療保険(健康保険組合など)に高額療養費の支給申請書を提出または郵送することで、支給が受けられます。
高額療養費を申請した場合、支給には、受診した月から少なくとも3か月程度はかかります。
医療費のお支払いが困難なときには、無利息の「高額医療費貸付制度」を利用できる場合があります。
制度の利用ができるかどうか、貸付金の水準はどのくらいかは、ご加入の医療保険によって異なります。
まずはお持ちの被保険者証で、どの公的医療保険に加入しているかを確認してください。
「認定証」に関してのお問合せ先も、加入している公的医療保険先になります。
厚生労働省のホームページに詳しい申請の仕方が書いてありますので、そちらを参考にしてください。
また、自治体によっては独自の医療費助成制度がありますので、お住いの自治体に問い合わせてみてください。
治療はやめることができるのか
富山県射水市民病院で起こった事件
2006年、富山県のある病院が記者会見を開きました。
その内容とは、2000年から2005年にかけて、7人の患者が外科部長によって人工呼吸器を取り外されて死亡していたというものでした。
報道によると、患者は50歳代から90歳代の男女で、7人いずれも意識がなく、回復の見込みがない状態であったとされています。
カルテには、人工呼吸器を外すことについて、本人または家族の同意を得られたことが記されていました。
延命治療に関しての大きな変
2006年当時、命を支えている人工呼吸器を外すという行為は、殺人罪に問われかねない医療界でタブーとされているものでした。
しかし、この事件を契機に医療は大きく変化します。
2007年、国は「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を発表し、延命治療の中止が初めて公的に認められました。
その後、以下についても、選択肢としてガイドラインで相次いで示されました。
・胃ろうなどの人工栄養の中止
・人工呼吸器などの生命維持装置の中止 など
延命治療を中止することは容易ではない
脳梗塞で重い意識障害が残り、寝たきりになってしまった場合、治療の中断という選択肢はあるのでしょうか?
先ほど述べたように、回復の見込みがない場合に限り、それは可能です。
しかし、実際に治療を中止することは容易ではありません。
重症の脳梗塞の場合、本人の意思はすでに確認できる状態にありません。
そのときは家族に、患者の推定意思を尊重し、患者にとって何が最善であるかを考えていただきます。
命にかかわることですから、親族とも何度も話し合う必要がありますし、病院側とも何度も話し合いを重ねなければなければなりません。
そして双方が、患者にとって延命治療は中止するのが望ましいという意見で一致しないと、延命治療は中止できません。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
国は延命治療についての検討会を重ねており、以前と名称が変わりましたが、平成30年には「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(改訂版)を発表しています。
この中でポイントとして挙げられているのが、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。
ACPとは、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むかなどを、日頃から繰り返し話し合うことです。
看護師などが、患者と医療者側の知識の溝を埋めながら、治療の方針について、共に考えて計画していく取り組みです。
欧米を中心に実践が始まっていますが、日本の一部の病院でも取り組みが始まっています。
リビング・ウィル(living will)
英語で、リビングは「生きている」、ウィルは「意思」という意味です。
リビング・ウィルとは、重病になり自分自身では判断ができなくなる場合に、治療に関しての自分の希望を述べておく書類、特に、医師たちに治療を中止し死ぬにまかせてくれるよう依頼する書類のことです。
自分の生き方を決定する
脳梗塞のみに限りませんが、元気なうちに自分が病気になったときにどのように治療してほしいかを考えておくこと、そしてそれを家族に伝えておくことは大切なことです。
まだまだ先のことと考えず、これを機会にご家族とご自身の生き方について話してみましょう。