くも膜下出血は、生命の危険があるような恐ろしい病気であることはもちろん、その後の生活にも大きな影響を及ぼす病気です。
突然病に倒れ、思いもよらない生活が待っているなんて、普段平穏な日常生活の中ではなかなか想像すらできませんよね。
しかし、発症後の生活について準備をしておくだけでも、幾分かその後の生活も変わってくるでしょう。
実際に、くも膜下出血を発症し倒れたあと、どのように回復していくのがベストなのでしょうか?
今回は、くも膜下出血後の生活について、リハビリの流れや退院後どのように生活したら良いのかを説明します。
くも膜下出血後のリハビリの流れ
くも膜下出血発症後、リハビリを進めるにあたって、クリニカルパスというものが用意されます。
「クリニカルパス」とは、入院治療計画書のことです。
入院して治療が開始されるときに、患者さんに渡されることが多いです。
これは、医療従事者やリハビリスタッフが連携を図って、個々の患者さんに合わせた治療を提供し、QOL(生活の質)を高めるためのものです。
入院すると、そのクリニカルパスに沿った治療及びリハビリが行われます。
リハビリには3つの段階がある
リハビリにはその時期に見合ったものがあり、主に急性期、回復期・維持期の3期間に分類されます。
急性期リハビリ
急性期には、まず床ずれや拘縮予防のための定期的な体位変換が必要です。
ベッド上で座ったり手足を動かしたりする、簡単な動作から始めるのが一般的です。
その後、ベッドから起き上がり、介助者や移動バーを使って立つ練習をし、そして車いすへの移乗ができるようにしていきます。
ギャッジアップ(病床ベッドの背もたれを、角度をつけて上げること)ができるようになってくると、また別のリハビリが始まります。
口腔ケアから始まり、嚥下運動の練習や呼吸・言語訓練、そして柔らかい食べ物から徐々に摂取していく訓練へと移行します。
回復期リハビリ
回復期には、集中したリハビリが行われるため、専門の病棟や病院へ移動します。
身体の機能を回復させるため、立ち上がったり歩行したりする訓練から始めます。
その後、食事・排泄・入浴・更衣などの日常生活での動作ができるようにリハビリを進めていきます。
この際、必要であれば自助具を使うこともあります。
また、片麻痺には麻痺していない健常な反対側のリハビリも必要だということを忘れてはいけません。
麻痺側だけをリハビリしていくと、反対側の筋力や機能が著しく低下する場合があるからです。
失語・失行・失認等の高次脳機能障害に対しては認知リハビリが行われますが、高次脳機能障害はその他の身体的障害に比べてわかりにくく、周囲にも理解されにくいのが難点です。
維持期リハビリ
急性期・回復期のリハビリを経て、退院後には維持期のリハビリが始まります。
具体的には、手足のストレッチの他、回復期までに得た身体機能を用いた日常的な動作や家事を行ったりします。
ここで重要なのは、できることは自分でするということです。
周りが必要以上に介助や手助けをするようになると、せっかく回復期までに得た機能を失ったり、ひどい場合は寝たきりになることもあります。
帰宅後、維持期のリハビリには、本人の意識や努力のみならず、周囲の家族や介助者のそのような意識や協力が不可欠です。
参考)
ナース専科 看護用語集
『患者の為の最新医学 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血』 高木 誠 監修 高橋書店 発行
『図解 脳卒中 自宅でできる簡単リハビリ 寝たきりにならずに早期社会復帰を目指す』 三好 正堂 著 株式会社 実業之日本社 発行
退院後は公的サービスを利用しよう
加齢によって心身の機能が衰え、日常生活に支障が生じた人に介護サービスを提供する制度として、介護保険があります。
介護保険は、脳卒中の場合、40歳以上なら受けることができます。
40歳以上の場合は介護保険を利用できる
介護保険の制度を利用して、自分に合った退院後のリハビリスタイルを選択することができます。
具体的には以下のような方法が選択できます。
・自宅療養
・施設入所
・自宅療養をしながら短期入所施設を利用する
介護保険利用の大まかな流れとして、まず本人(家族)が各自治体の保険課窓口で申請し、介護認定を受けます。
その後は、ケアマネージャーによってケアプランが作成され、サービス開始となります。
くも膜下出血後の自宅療養
自宅療養の場合は、次のような在宅サービスを選択できます。
・訪問看護、訪問介護、訪問リハビリ、訪問入浴
・通所施設での介護やリハビリの利用
・医師や薬剤師等による居宅療養管理指導
・特定福祉用具の貸与や購入費用の負担
・住宅改修費用の一部が負担される など
また、短期入所施設と併用することで、介護者の疲労を癒し、負担を減らすことに役立ちます。
くも膜下出血後の施設入所
施設入所サービスを利用する際にも、さまざまな選択肢があります。
・特別養護老人ホーム
・老人保健施設
・介護療養型医療施設 など
さまざまなタイプの施設形態がありますので、患者さん本人を含め、ご家族でしっかりと話し合いを行うことが重要です。
個人の状態や症状、目的を考慮して選択しましょう。
40歳未満の場合は身体障がい者手帳を取得できる
40歳未満の場合、介護保険は受けられません。
しかし、身体障がい者手帳を取得することで、各種行政のサービスを受けることができます。
場合によっては、障がい者年金や傷病手当を受けることもできます。
退院後にどのようなサービスが利用できるのか、入院先のソーシャルワーカーや行政窓口の担当者、担当のケアマネージャーとよく相談して、最も相応しいサービスを受けましょう。
参考)
『図解 脳卒中 自宅でできる簡単リハビリ 寝たきりにならずに早期社会復帰を目指す』 三好 正堂 著 株式会社 実業之日本社 発
くも膜下出血後の生活で重要なのは再発防止に努めること
くも膜下出血が危険で恐ろしい病気と言われる理由に、以下が挙げられます。
・命に関わる病気であること
・再発率の高さ
再発すると死亡率が50%と高く、後遺症のリスクも上がります。
そのため、くも膜下出血後の生活では再発防止に努めることが重要となってきます。
再発予防のため生活習慣を改善しよう
再発防止で最も重要となるのは「高血圧を予防すること」と「禁煙」だと言われています。
高血圧は文字どおり、血液の圧力が高いため、既に発生している動脈瘤への負担が増して破裂の可能性が高まります。
喫煙は、たばこに含まれる有害物質により動脈硬化が引き起こされます。
ちなみに、喫煙+過度の飲酒では6倍、高血圧+喫煙では約10倍も、くも膜下出血の危険度が増します。
ところで、くも膜下出血の原因である脳動脈瘤には、紡錘状動脈瘤や嚢状動脈瘤、解離性動脈瘤がありますが、動脈硬化の原因には、高血圧・糖尿病・高脂血症などの病気や、喫煙・飲酒・運動不足・睡眠不足・偏った食事(肥満・痩せ)などの生活習慣の他、ストレスや加齢が考えられます。
これらの因子を鑑みると、生活習慣を改善することによって、くも膜下出血の予防及び再発予防が可能といえます。
再発防止のための自宅療養の注意点
その再発予防ですが、入所施設では、医療及び介護の管理下に置かれるため、自己管理云々はそれ程問題にはなりません。
しかし、在宅療養となるとそのほとんどすべてを自分で管理しなければならなくなります。
入院中に惜しまず努力できていたことでも、自宅に帰れば自分に甘くなりできなくなることがあります。
リハビリもそうですが、今までの生活習慣に逆戻りしてしまうと、再発のリスクがグンと上がってしまいます。
過去の習慣を自分一人の力で断ち切ることは容易ではありません。
自宅療養で再発防止に努めるためには相当な決意と努力が必要となります。
参考)
『「くも膜下出血」のすべて』 堀 智勝 著 株式会社 小学館 発行
かんきクリニック くも膜下出血(脳出血)
くも膜下出血後の生活はストレスと上手く付き合うことが重要
くも膜下出血後の生活において、リハビリをする側も、介護をする側も、今まで感じたことのないストレスを抱えることになります。
このストレスと上手く付き合っていけるかが、日常生活を送る上でのカギになります。
リハビリの過程では、特に以下のようなストレスを感じることがあります。
・今までできていたことが容易にできなくなり、もどかしい思いをする
・誰かの手を借りなければ生活が難しく介護者への気負いや気遣いで疲れる
・喫煙や飲酒、食事への欲求が叶わない
・不安や葛藤を抱えながらの生活
また、介護者側も介護ストレスにより介護うつになる可能性があります。
介護する側・される側双方のケアが必要です。
考えうる限りのことをしてください。
・とにかく無理はしない
・使える制度は使う
・相談できる人に相談する
・自分と同様の体験談を見聞きして情報や感情を共有する など
周りの助けを借りることで、不安や負担が解消されることもあるでしょう。
退院後の生活は、いかに心身のバランスを保っていけるかが大きなポイントとなります。
簡単なことではありませんが、ストレスを緩和しながら1歩1歩回復への歩みを進めていくことが大切です。
参考)
『身近な人が脳卒中で倒れた後の全生活術 誰も教えてくれなかった90のポイント』 待島 克史 著 落合 卓 監修 時事通信出版社
くも膜下出血後の考えておきたい生活スタイル
今回は、くも膜下出血後の生活について、リハビリの過程や利用できる公的サービス、退院後の注意点についてご紹介しました。
くも膜下出血発症後は、想像以上に大変な生活が待っています。
特に、退院後も続くリハビリや再発防止の自己管理(生活習慣の改善)にストレスを抱えることも多いでしょう。
利用できるサービスは最大限利用し、無理をせずにストレスとうまく付き合っていくことが大切です。
自分に合う環境で、無理のないリハビリや生活習慣を続けていくことが、心身回復の近道と言えるでしょう。