ガイドラインで推奨されている片麻痺に対する効果的な理学療法とは?

理学療法には、2011年に日本理学療法士協会によって作成された診療ガイドラインが存在します。

2021年には第二版が発行され、理学療法士の臨床の指標として、21領域、41疾患・外傷に対する治療方法がエビデンスに基づいてまとめられています。

理学療法の診療ガイドラインによって、理学療法士の臨床の質が高まり、信頼性や妥当性が高い治療の提供が可能になりました。

中でも片麻痺に対する診療に関しては「各疾患・領域の理学療法診療ガイドライン」の項目のうち「脳卒中」に明記されています。

今回は、理学療法ガイドラインに記されている「片麻痺」に対する理学療法について、急性期、回復期、慢性期に分けてご紹介します。

目次

理学療法ガイドライン第一章「脳卒中理学療法ガイドライン」

理学療法ガイドライン(第二版)の第一章には、脳卒中における理学療法について、以下が記されています。

  1. 介入の流れ
  2. 評価方法
  3. 治療方法

その中に片麻痺に対する理学療法が含まれており、臨床の指標とされています。

急性期

急性期では、発症後間もなくの早期介入が大切とされています。

しかし、全身状態が安定していない段階なので、血圧や脈拍、血中酸素飽和濃度などのリスク管理が重要です。

介入内容

発症後間もない急性期では、全身状態の管理のためにベッド上で過ごすことが多く、拘縮や廃用が進みやすい時期です。

そのため、ガイドラインでは、早期の介入や積極的な離床が推奨されています。

しかし、急変や状態悪化の可能性もあります。

リハビリの際には必ず『血圧、脈拍、呼吸数、体温など』のバイタルチェックを行います。

①車椅子座位のポジショニング

体幹が垂直になるように、その人の骨格に合わせて車椅子を調整します。

猫背や体幹の筋肉が弱い方は、姿勢が崩れやすいので、クッションやタオルを使用します。

座位姿勢が悪いと、過剰な筋緊張など身体の負担になりやすいです。

積極的な離床が推奨されているからこそ、長時間良い姿勢が保てるように、個人に合わせた車椅子座位のポジショニングが大切です。

②関節拘縮の予防

関節の拘縮によって分圧がされにくくなり、褥瘡が起こりやすくなってしまいます。

関節拘縮の予防には、ポジショニングが重要です。

この場合のポジショニングは、車椅子座位だけでなくベッド上の姿勢も含みます。

③関節可動域訓練

麻痺には大きく分けて、以下の2つがあります。

  1. 筋緊張が低い弛緩性麻痺
  2. 筋肉が過緊張になる痙性麻痺

それぞれ不適切な可動域訓練によって炎症や二次的な痛みが発生することがあるので、筋肉の状態をみながら愛護的に行います。

④座位訓練を開始

座位耐久性の向上を目指す座位訓練には、以下のような開始基準が設けられています。

  • 意識レベルがJCSで1桁
  • 全身状態が安定している
  • 障害の進行が止まっている

座位訓練には段階があり、車椅子乗車の前にベッド上ギャッヂアップから開始し、徐々にギャッチの角度を上げていきます。

その際に血圧低下のリスクもあるため、必ず介入前後で血圧測定を行います。

⑤立ち上がり・歩行訓練

人によっては、装具の使用や介助での立位や歩行訓練を早期から開始することで、座位が安定する場合があります。

早期理学療法は予後に影響するのか?

早期の理学療法は推奨グレードが高く、なかでも発症後72時間以内に介入した場合の『入院期間の短縮』『歩行能力の向上』について、有意差を認めています。

回復期

回復期は、急性期を経て状態が安定してくる時期です。

より積極的なリハビリ介入が重要です。

介入内容

機能的なリハビリだけでなく、『寝返り、起き上がり、起立、移乗、立位、歩行訓練など』実動作についても運動学習を考慮したアプローチを行います。

①歩行訓練

麻痺の重症度が重い分だけ、装具療法は有効です。

膝折れの有無によって、長下肢装具や短下肢装具が選択されます。

脳卒中では、感覚障害の影響により脳へ荷重感覚が伝達されずに膝折れする場合もあります。

膝折れの原因によっても有効なアプローチ方法が異なるので、評価分析が重要です。

②移動手段の確立、活動範囲の拡大

たとえ片麻痺があっても、車椅子を自走して趣味活動に勤しむ方は多くいます。

リハビリ以外の時間を居室で寝て過ごすよりも、新聞や本を借りたり、他患者と談笑したり活動的に過ごすことは、心身の回復に好循環を生みます。

運動学習

脳卒中では、麻痺や筋力低下だけでなく、元々プログラム化されていた運動動作が損なわれることがあります。

それに対して、理学療法を通じて新たな運動プログラムを再構築していくことを運動学習といいます。

高次脳機能障害という脳の働きの問題について理解し、患者さんの全体像を把握した上で適切なアプローチを行います。

慢性期

慢性期は、維持期や生活期とも呼ばれます。

それぞれ名称は異なりますが、意味としては同義語です。

身体の状態だけでなく、脳神経の可塑的変化も落ち着く時期のことを指します。

ただし、発症後6ヶ月以降も緩やかではありますが、神経的変化が認められる場合があるため、脳卒中ガイドラインでは『慢性期』と表現されています。

介入内容

慢性期では、筋力や体力など身体機能の維持・向上を目指して治療を行います。

リハビリの機会としては、訪問リハビリや通所リハビリ、外来リハビリなどが挙げられますが、介護度や生活状況を踏まえてケアマネジャーに相談すると安心です。

歩行訓練

慢性期における歩行訓練に関しては、歩行距離や訓練量が多ければ多いほど、歩行能力が改善するとされています。

理学療法診療ガイドラインでは、慢性期の歩行訓練での装具療法は、機能的な歩行だけでなく、転倒予防にも効果があると記されています。

片麻痺はガイドラインによって質の高い理学療法が提供されている

理学療法ガイドラインは、2011年に作成された比較的新しい指針です。

2021年には第二版が作成され、内容の充実や改良がされています。

ガイドラインの目的は、以下のように様々です。

  • 理学療法の標準化
  • 科学的根拠に基づいた信頼性・妥当性の高い治療の提供
  • 質の高い理学療法

片麻痺に対する理学療法について、一概に訓練内容を規定することはできません。

なぜなら、障害部位や重症度によって、必要なアプローチが異なるからです。

しかし、脳卒中のリハビリでは、急性期・回復期・慢性期において一定の原則や流れが存在します。

近年のリハビリ業界では、ガイドラインがあることで『個人の臨床像を把握し、発症からの経過から有効なアプローチを選択する』等、より質の高い理学療法の提供が可能になっています。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

目次