【脳梗塞の理学療法ガイドライン】脳卒中理学療法ガイドライン2021に基づき紹介

脳梗塞を発症した患者さんは、理学療法士による適切な評価と介入により、早期離床・早期回復が期待できます。

しかし、理学療法にはさまざまな種類の評価・介入方法があり、どれを現場で用いたら良いのか悩んでいる理学療法士は少なくありません。

そこで日本理学療法学会連合が発表した「脳卒中理学療法ガイドライン2021」に基づき、各理学療法の信頼性・妥当性、科学的根拠、エビデンスを紹介します。 

目次

理学療法ガイドラインの推奨グレードとエビデンス分類

理学療法ガイドラインでは、各理学療法の評価と介入について、推奨グレード分類エビデンス分類が設定されています。

推奨グレード分類

推奨グレード分類は、以下の2つがあります。

  1. 理学療法評価(指標)
  2. 理学療法介入

理学療法評価(指標)のグレードは、A、B、Cの3段階で分類されています。

  • A「信頼性・妥当性がある」
  • B「信頼性・妥当性が一部ある」
  • C「信頼性・妥当性は不明確であるが一般的に使用されているもの」

理学療法介入のグレードは、A、B、C1、C2、Dの5段階で分類されています。

  • A「行うように勧められる強い科学的根拠がある」
  • D「無効性や害を示す科学的根拠がある」

Aに近いほど科学的根拠があるとされています。

エビデンス分類

理学療法介入のエビデンスレベル分類は、エビデンスレベルを1、2、3、4a、4b、5、6の7段階で設定しています。

1は最もエビデンスレベルが高く、6は最も低いとされています。

1に近いほどエビデンスレベルが高いです。

理学療法評価(指標)の推奨グレード

理学療法評価(指標)は理学療法介入にあたり、患者さんの全身状態を把握するために、まず始めに行うものです。

各評価の信頼性・妥当性があるか、推奨グレード分類を紹介します。

総合的評価

総合機能評価は、脳卒中の患者さんの機能障害を総合的に評価したものです。

患者さんの発症時期や状態によって、どの機能評価を使用するか異なりますが、推奨グレード分類は、Aの評価が多いです。

推奨グレード分類
SIAS(脳卒中機能障害評価セット)A
NIHSSA
フューゲル マイヤー運動機能評価A
SIS(ストロークインパクトスケール)A
ICF(国際生活機能分類)B
JSS(脳卒中重症度スケール)A

運動機能評価

運動機能評価は、上肢や下肢などがどの程度動かせるかを評価します。

推奨グレード分類は、Aの評価が多いです。

推奨グレード分類
MAS(運動機能評価スケール)A
MSS(運動機能スケール)A
ブルンストローム ステージB
チェドック マクマスター脳卒中評価A

筋力の評価

筋力の評価は、運動機能指標、筋力測定が取り上げられており、どちらも信頼性・妥当性が一部あるとされています。

推奨グレード分類
運動機能指標B
筋力測定B

筋緊張・可動性の評価

筋緊張・可動性の評価は、唯一ROM(関節可動域)が信頼性・妥当性があるとされています。

推奨グレード分類
アシュワース スケール変法B
F波、H 反射、T波B
包括的痙縮評価C
ROM(関節可動域)A

歩行の評価

歩行の評価は、4つが取り上げられており、どれも信頼性・妥当性があるとされています。

推奨グレード分類
E-FAP(エモリー機能的歩行能力評価)A
WIQ(歩行障害質問票)A
IUG(timed “up & go” test)A
10m歩行テストA

姿勢・バランスの評価

姿勢・バランスの評価は、取り上げられた7つ中5つが信頼性・妥当性があるとされています。

SCPはカットオフ値(特定のグループ群とそうでないグループを分ける値)が検討されており、TCTは簡便な検査法とされています。

推奨グレード分類
バーグ バランス スケールA
PASS(脳卒中姿勢評価スケール)A
SCP(プッシング スケール)B
ティネッティー バランス テストA
FRT(機能的リーチテスト)A
二重課題法A
TCT(体幹コントロールテスト)B

半側空間無視・注意障害・遂行機能障害の評価 

半側空間無視・注意障害・遂行機能障害の評価は、取り上げられた7つすべてに信頼性・妥当性があるとされています。

推奨グレード分類
時計描写テストA
線分二等分テストA
文字抹消テストA
アルバート線分抹消テストA
簡易認知機能検査(MMSE)A
行動性無視検査(BIT)A
遂行機能障害症候群の行動評価(BADS)A

疼痛・うつの評価

疼痛・うつの評価は、取り上げられた4つ中3つが信頼性・妥当性があるとされています。

視覚的アナログスケールは、失語症患者のうつ状態の評価として有用であると評価されています。

推奨グレード分類
short-form 36-item(SF-36)A
視覚的アナログスケール(VAS)B
やる気スコア(ARS)A
うつ自己評価スケール(SDS)A

ADLの評価

ADLの評価は、取り上げられた3つ中2つが信頼性・妥当性があるとされています。

推奨グレード分類
バーセル インデックス(BI)A
機能的自立度評価(FIM)A
改訂版ランキンスケール(mRS)B

理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベル

理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベルを紹介します。

ここでは脳卒中理学療法ガイドライン2021を簡潔に述べているため、詳しい内容は公式サイトからご確認ください。

早期理学療法

72時間以内にリハビリを始めたグループは、そうでないグループと比較すると、入院期間が短く歩行能力が高いと報告されています。

推奨グレードエビデンスレベル
早期理学療法A2

姿勢と歩行に関する理学療法

亜急性期である脳卒中の患者さんに対し、以下に分けて歩行能力回復を比較しています。

  • 伝統的な運動療法を行うグループ
  • 伝統的な運動療法に加えてトレッドミル歩行練習を行うグループ
  • 平地歩行練習を行うグループ

その結果、歩行能力は歩行練習を行った2つのグループで改善したと報告されています。

推奨グレードエビデンスレベル
早期歩行練習A2
回復期の姿勢・歩行練習A2
装具療法A2

電気刺激療法およびその他の物理療法

電気刺激療法およびその他の物理療法は、内容によっては効果が認められています。

推奨グレードエビデンスレベル
電気刺激療法およびその他の物理療法B2

持続的筋伸張運動 

持続的筋伸張運動は効果が認められなかったという報告と、効果を認めたという報告もあるため、客観的なデータを検討する必要があるとされています。

推奨グレードエビデンスレベル
持続的筋伸張運動B2

運動障害に対する理学療法

運動障害に対する理学療法は、バイオフィードバック療法のみ信頼性・妥当性があり、エビデンスレベルが最も高いとされています。

推奨グレードエビデンスレベル
バイオフィードバック療法 A1
促通反復療法B2
CI 療法B2
トレッドミル歩行練習 B2

半側空間無視・注意障害・遂行機能障害に対する理学療法

半側空間無視に対する理学療法は、改善があったものとないものがあったと報告されています。

注意障害に対する理学療法は、エビデンスが得られなかったと報告されています。

また遂行機能障害に対しては、日常生活の自立レベルや機能・活動に応じた問題解決練習を行うことが推奨されます。

推奨グレードエビデンスレベル
半側空間無視・注意障害・遂行機能障害に対する理学療法B5

肩関節障害に対する理学療法

肩関節障害に対する理学療法は、内容によっては改善が認められたと報告されています。

推奨グレードエビデンスレベル
肩関節障害に対する理学療法B2

体力低下に対する理学療法

体力低下に対する理学療法は、エビデンスレベルは低いですが、有酸素運動は脳卒中の患者さんの心肺機能を向上させ、歩行機能も向上させると報告されています。

推奨グレードエビデンスレベル
体力低下に対する理学療法A4

在宅理学療法

在宅理学療法は、介護負担軽減がみられたケースがありますが、介護者の一番の負担である排泄介護の状況には変化がみられなかったと報告されています。

推奨グレードエビデンスレベル
在宅理学療法B2

理学療法ガイドラインに沿って脳梗塞のリハビリをしよう

この記事では、脳梗塞を含む脳卒中の理学療法ガイドラインを紹介しました。

現場ではどの理学療法を用いたら良いのか悩みますが、信頼性や妥当性、科学的根拠、エビデンスが明らかであるか分かると取り入れやすいです。

今回紹介した理学療法を現場で取り入れ、脳梗塞の患者さんの早期離床・早期回復を目指しましょう。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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