脳梗塞のリハビリはいつからはじめるのが良い?脳梗塞の後遺症を回復させるには?

脳梗塞の後遺症を少しでも軽減させるには、いつからリハビリを開始するのが良いのでしょうか。

かつては、脳が一度損傷すると、発症から半年以降は後遺症が改善せずに残存するとされていました。

しかし、現代の脳科学の研究では、適切なリハビリを継続することで機能は変化するとされています。

本記事では、脳梗塞のリハビリをいつから開始すればよいのかご紹介いたします。

目次

脳梗塞発症後すぐにリハビリを開始すると後遺症が回復しやすい

ひと昔前までは、脳梗塞を発症して間もなくは状態が悪化しないように、ある程度治療が落ち着くまでは安静第一とされてきました。

しかし、現代の脳卒中の治療ガイドラインでは、発症から早期のリハビリを推奨しています。

発症直後の介入により、症状が軽減し、廃用や誤嚥性肺炎のような合併症を予防することができるとされています。

脳梗塞のリハビリを早期に開始する理由

脳梗塞のリハビリが、早期に開始される理由は以下のとおりです。

①長期間の寝たきりによる廃用症候群を予防する

ベッド上で安静にしている状態が長く続くと、身体の運動機能が低下し、廃用が進んでしまいます。

日常生活動作は麻痺だけでなく、廃用による問題も影響するため、早期に身体を動かす機会を設けることが重要です。

②低下した筋力や基礎体力を回復させる

早期の「日常生活動作の自立」や「社会復帰」には、しっかりとリハビリを行うことが大切です。

そのためには、効率よくリハビリを行うための体力が必要になります。

また、脳梗塞をはじめとする脳卒中のリハビリテーション期間は、発症から最大180日と定められており、原則的に算定期間を過ぎると「維持期(生活期)リハビリ」への移行となり、リハビリ頻度が減ってしまいます。

他にも「回復期リハビリ」への入院は、発症から入院までの期間についても上限が設けられています。

これらのことからも、限られた期間の中で無駄なくリハビリを行うためには、早期のリハビリ開始が望ましいです。

できるだけ多くのリハビリ機会を設けるためにも、急性期にリハビリを開始しましょう。

脳の可塑性

脳梗塞などの脳血管疾患により失われた脳の神経細胞は、病前のように再生することはありません。

それと同時に、脳の機能も障害を受けます。

これにより引き起こされるのが、麻痺高次脳機能障害です。

しかし、現代の脳科学における研究では、リハビリテーションによって損傷された部位の周辺細胞に新たな神経回路が繋がることが判明しました。

例えば、『足首』の運動を司る部位が損傷されても、その周辺にある通常『つま先』の運動を司る神経細胞が代わりに『足首』の運動についても指令を出せるようになることがあります。

これを『脳の可塑性』といい、リハビリによる運動学習メカニズムが働くことで促進されることが明らかになっています。

脳梗塞のリハビリ介入時期について

脳梗塞のリハビリテーションは発症から「急性期」「回復期」「維持期(生活期)」の時期に分けて進んでいきます。

脳梗塞発症からおよそ2週間を急性期、その後発症から約半年を回復期、それ以降を維持期(生活期)と分類します。

各期に応じてリハビリの目的や特徴が異なりますが、脳血管疾患リハビリテーションとしてより多くのリハビリを受けるには、発症から出来るだけ早期に開始することが望ましいです。

ここでは「急性期」「回復期」「維持期(生活期)」の各期について紹介していきます。

急性期のリハビリ

時期脳卒中(脳梗塞)を発症してからおよそ2週間
目的・長期臥床による廃用症候群の予防(関節の拘縮や筋肉の萎縮など)
・ADL自立に向けた早期離床

脳梗塞をはじめとする脳卒中を発症すると、救急医療を担っている急性期病院に搬送されます。

その後、脳梗塞の治療が行われ、入院期間中にリハビリテーションが開始されます。

病気を発症した直後は、意識が朦朧としていたり全身を巡る血流に負荷がかかりやすい等、状態が変化しやすく注意が必要です。

その一方で、ベッド上に寝たきりの状態が続くと関節の拘縮や筋肉の萎縮など『廃用症候群』に陥りやすいとされています。

急性期でのリハビリは、基本的に発症後48時間以内に開始することが推奨されています。

このため、身体に負担が掛かりすぎないように、血圧や血中酸素濃度などバイタルサインに気をつけながら、座位・立位・歩行など慎重にリハビリを進めていきます。

発症から間もない急性期では、障害を受けた脳の血流が改善することで脳の浮腫が解消されていくのと同時に、ある程度麻痺が自然に回復していきます。

また、適切なリハビリにより脳細胞が活性化することで新たな運動学習が行われます。

例えば、脳梗塞により左脳が障害され、右半身に麻痺が生じたとしても、麻痺側の運動機能訓練を行うことで新たな神経細胞が作用するようになります。

回復期のリハビリ

時期急性期以降、脳卒中(脳梗塞)を発症してからおよそ 5~6か月の間
目的・上肢、下肢の身体機能改善
・歩行、排泄、整容など日常生活動作の獲得
・言語機能や注意機能など高次脳機能障害の改善

急性期で脳梗塞の治療が完了し、状態が安定すると回復期のリハビリテーション病棟へ移り、日常生活の復帰に向けてさらに実践的なリハビリが行われます。

日常生活を送る上で欠かせない運動機能や高次脳機能の問題点を抽出し、改善に向けて具体的にアプローチを行う期間です。

リハビリ室では、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が機能訓練を行います。

病棟では、看護師や介護士などのスタッフが協力して、日常生活動作の獲得を目指して実践的な練習が行われます。

日常生活や社会復帰に必要なサービスを組み立てたり、退院後の生活を見通した土台を築く役割を担います。

生活期のリハビリ

時期回復期以降、脳卒中(脳梗塞)を発症してからおよそ6か月以降
目的・急性期〜回復期で回復した筋力や体力を維持する
・機能低下を予防する

生活期のリハビリは、主に外来受診や自宅での訪問リハビリ、施設での通所リハビリにて行われます。

脳梗塞の発症から180日が経過すると、脳血管疾患のリハビリテーション算定期間が終わり、リハビリの頻度が大幅に減少するため、生活期では1回1回のリハビリがとても貴重です。

生活期では、回復期リハビリで回復した筋力や体力、機能を維持することがリハビリの目的になります。

脳梗塞の後遺症を回復させるにはできるだけ早くリハビリを開始することが重要

これまでの脳科学の研究により、リハビリテーションによる脳梗塞後遺症の機能回復について『早期介入』が重要であることが明らかになりました。

「病気になってしまったから」といって何日も安静にしていると、その分筋力は低下して廃用症候群に陥りやすくなります。

機能を維持するためには、少しでも体を動かす機会を設けることが望ましいです。

また、脳の神経細胞は運動学習により新しく神経回路が繋がることがあるため、脳梗塞による後遺症を軽減するにはリハビリが欠かせません。

ただし、集中的にリハビリができる期間には限りがあります。

少しでも無駄なく効率よくリハビリを受けるためにも、急性期の段階で早期にリハビリを開始することが大切です。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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