再生医療のこれから

再生医療と聞いてどんなイメージが浮かぶでしょうか?

将来的に私たちはどんな医療を受けることができるのでしょうか?

再生医療の現状や期待される医療について、お伝えしていきます。

目次

再生医療とは

再生医療の話のときによく出てくるのが「トカゲのしっぽ」です。

トカゲは外敵に襲われたときに、自らしっぽを切り離して逃げる習性があります。

このしっぽは、しばらくすると生えてきて、また元通りになります。

これが「再生」です。

人間は手足を失うと、新しく生えてくることはありません。

しかし、人間にもこの再生能力が一部あります。

人間は肝臓の3/4を切除しても、再生します。

すり傷ができたときも、皮膚は再生しますね。

再生医療とは、怪我や病気で失われた細胞や組織、器官を再生させる治療のことです。

未来のことのように感じるかもしれませんが、すでに臨床で用いられているものもあります。

再生医療は、倫理上の問題や費用の問題など、まだまだ課題も多くあります。

しかし、日々研究が進み、難病の治療への期待も高まっています。

iPS細胞とは

再生医療と聞いて「iPS細胞」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか?

2012年、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発によって、京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞されました。

これをきっかけに、医療従事者ではない一般の方々にも、再生医療の知識が広まったように思います。

iPS細胞とは、細胞を培養して人工的に作られた多能性の「幹細胞」のことです。

幹細胞というのは、細胞を作り出す細胞のことです。

この幹細胞を、病気で失われた細胞に変化させて移植し、臓器などの機能を取り戻すなどの研究が進んでいます。

山中伸弥教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所では、新型コロナウイルスに関する研究も行っています。

iPS細胞由来の肺組織に、新型コロナウイルスを感染させ、病態解明や創薬の研究を進めているそうです。

実際の人の肺の細胞はなかなか手に入りませんから、iPS細胞を使って、肺を作り出しているのです。

こういった場面でも、再生医療の技術は活用されているのです。

山中伸弥教授ですが、彼は最初から再生医療の研究をしていたわけではありません。

元々は動脈硬化の研究をしていましたが、研究結果に予想外のことが起こり、途中から今度はがんの研究を始めます。

そしてがんの研究をする中で、ES細胞に関わる大切な遺伝子を発見します。

そしてES細胞の研究を続けていてできたのが、iPS細胞です。

新しい発見は、このようにして生まれることもあるのですね。

幹細胞について

再生医療に用いられものは、iPS細胞だけではありません。

幹細胞、つまり細胞を作り出す細胞は大きく分けると3種類あります。

「体性幹細胞」「ES細胞」「iPS細胞」です。

iPS細胞ばかりが注目されていますが、実際に最も医療への応用が進んでいるのは「体性幹細胞」です。

iPS細胞に比べて増殖能は限定的ではあるものの、人の体の中に元々ある細胞を使用するため、倫理上の問題もなく、治療に応用しやすい側面があるのです。

再生医療の実用化

すでに実用化が進んでいる再生医療もあります。

2018年には、条件付き期限付きの早期承認制度ではあるものの「急性期脊髄損傷」で保険が適用されている治療薬があります。

治療ができる病院も限られているのですが、少しずつ実用化に向けて動き始めているのです。

この治療薬に関しては、投与した患者さんについて追跡調査を行い、安全性や有効性などを確認し、そのデータに基づいて、7年後に本承認となるかどうかが決定します。

実用化が進んでいるのはこの治療薬だけでなく、他にもさまざまな分野で実用化は進んでいます。

自家培養軟骨移植術」は、再生医療を用いた画期的な治療法です。

適用は膝関節における外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)となります。

この治療法は、保険適用となっています。

再生医療についての研究は、目覚ましい進歩を遂げています。

今後も、保険適用となる治療薬や治療法は増えていくでしょう。

脳梗塞と再生医療

脳梗塞の後遺症についても、再生医療の観点からさまざまな研究が行われています。

現時点では保険適用の治療はないのですが、自由診療であれば、脳梗塞の後遺症に対して再生医療を行っている病院もあります。

現在は一般治療としてまだ普及は進んでいませんが、いつの日か保険適用となり、メジャーな治療法となることも考えられます。

そして、それはそんなに遠い未来のことではないかもしれません。

自由診療の治療が悪いわけではありません。

自由診療では、費用は高額になってしまうものの、再生医療など最先端の医療を受けることができます。

気をつけておかなければならないのは、自由診療の再生医療などは、有効性が公的に確認されていないという点です。

そのため、医療機関や治療法が信頼できるものであるかどうかは、自分の目で見極める必要があります。

しっかりと納得できるまで話を聞き、判断しましょう。

再生医療の課題

期待が膨らむ再生医療ですが、実は課題も山積みです。

iPS細胞は、癌化の危険性があるのではないかとされています。

ES細胞の方が安全性は高いとされていますが、ES細胞は受精卵から作られるため、倫理面での問題があります。

体性幹細胞では、倫理面の問題はありませんが、用途が限局的です。

どれも一長一短で、どこかに問題が出てきてしまいます。

また、再生医療の研究には莫大な費用や長い時間がかかります。

保険適用を目指すとなると、費用の問題をクリアするのはなかなか難しいでしょう。

再生医療への期待

再生医療には課題もたくさんありますが、期待もたくさんあります。

2014年に世間を騒がせた「STAP細胞」ですが、もし本当にSTAP細胞があったとしたなら、それは革新的なできごとでした。

STAP細胞とは、体の細胞を、弱酸性の液につけるなど外から刺激を加えるだけで、受精卵のときのような、体中のあらゆる細胞に分化できる状態に変えることができる細胞のことです。

結局は、この研究論文は虚偽であったとされています。

残念ながらSTAP細胞はなかったとのことですが、今後再生医療における革新的な何かが発見される可能性は十分にあります。

その何かが再生医療の常識を変えてしまうくらいのことが起きないとも限らないのです。

医療の常識が変わることは、珍しいことではありません。

日々医療は進歩しています。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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