脳梗塞の後遺症は、手足の麻痺や嚥下障害、記憶や言語機能が障害される高次脳機能障害など多岐にわたります。
これらの後遺症は、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が、それぞれの専門分野に応じてリハビリテーションを行います。
脳梗塞後遺症は障害を受けた部位や損傷の大きさによって、症状や重症度が異なり、後遺症の程度によって回復の度合いには個人差がありますので「リハビリの効果」について一概には言えません。
しかし、実際に脳梗塞を発症して後遺症が残った場合「リハビリでどのくらい改善できるのか」不安を感じる人は少なくありません。
今回は「リハビリによって脳梗塞後遺症がどこまで回復するのか」を個人差があることを前提に、一般的な回復過程に沿って回復の目安についてご紹介します。
脳梗塞後遺症における回復とは
そもそも脳梗塞の後遺症に対する回復とは何でしょう。
脳梗塞によって障害を受けた機能がもたらす日常生活での問題について改善する方法には「リハビリによる効果」以外にもさまざまな要素が含まれます。
行動の再構築
脳梗塞の後遺症による麻痺などの障害に対して、直接的にリハビリテーションが行われることで回復する現象を「行動の再構築」といいます。
障害を受けた器官を改善するために、以下が行われます。
- 麻痺に対する運動療法
- 日常生活動作に対する作業療法
- コミュニケーションや嚥下障害に対する言語聴覚療法
他にも記憶や注意機能など全般的な認知機能に対するアプローチとして「認知リハビリテーション」など、さまざまな分野のリハビリが行われます。
代償
脳梗塞の後遺症によって引き起こされた日常生活上の問題に対して、従来の方法ではない新たなアプローチで対処する方法を「代償」といいます。
例えば、以下のような脳梗塞の後遺症による障害があることを前提に、問題を解消する代償的なリハビリテーションです。
- これまで両手で行っていた作業を、非麻痺側の片手で遂行できるようにする
- 失語症により言葉での伝達が難しい場合、ジェスチャーなどの非言語でのコミュニケーションを導入する
- 杖や歩行器、車椅子など補助機器を活用して移動できるようになる
障害に影響されないように、生活しやすい環境に調整することも含まれます。
自然回復
脳梗塞の後遺症は、リハビリなどのアプローチをせずとも自然に回復することがあります。
自然回復については、脳梗塞そのものの改善に伴い、脳の働きを阻害していた要因が解消されることで機能が回復すると考えられています。
そのため、脳梗塞を早期に発見し、早期に治療することで損傷の程度を軽度に抑えることができれば、後遺症による影響を受けずに日常生活に復帰しやすいです。
脳梗塞の後遺症の回復する過程
脳梗塞後遺症に関するリハビリテーションには、効果を得やすい期間があるとされています。
脳梗塞を発症してからの回復過程について、説明していきます。
「回復曲線」について
脳梗塞の回復過程については、以下の3つの段階に分けられると考えられています。
- 急性期
- 回復期
- 維持(生活)期
これまでの研究によって、脳梗塞の後遺症は発症から6か月以内にリハビリの効果を得られやすいことが明らかになっています。
このような期間に対する回復の度合いや過程についてグラフ化したものが「回復曲線」です。
回復曲線では、発症からおよそ3か月は急速に回復しやすく、発症から6か月を境に回復の度合いが緩やかになる様子が現れています。
このようにリハビリ効果を発揮する期間の目安として「6か月の壁」と呼ばれることもあります。
しかし、発症から半年以降では「リハビリの効果が期待できない」というわけではありません。
脳梗塞の後遺症のリハビリによる回復には上限がなく、たとえ緩やかであっても長期間かけて機能を改善することが判明しています。
急性期
脳梗塞の発症直後から1〜2週間は、状態が不安定であり、リスク管理を行いながらリハビリテーションが行われます。
医学的治療として、脳損傷を最小限に抑え、脳血流の回復や浮腫の改善など、生体の自然回復を促します。
急性期での脳の回復速度は急速であることがほとんどであり、疾患の早期発見・早期治療が重要です。
回復期
身体の状態が安定した回復期では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による集中的なリハビリが行われます。
急性期での急速な回復に比べると、回復の速度はやや遅くなりますが、リハビリの効果を得やすい期間であるとされています。
維持(生活)期
脳梗塞発症から6か月以降の維持(生活)期では、回復の速度が緩やかになります。
維持(生活)期でのリハビリは、主に残存した障害を前提として、日常生活の環境に適応できるように働きかけるものがメインです。
代償へのアプローチと並行して機能訓練を続けることで、「目に見える変化」ではありませんが、ゆっくりと長期間かけて回復していくことが明らかになっています。
脳神経の可塑性は継続する
脳神経の可塑性、損傷した部位の周囲にある神経細胞が新たな回路を繋げる「再編成能力」は、発症から6か月経過した維持(生活)期でも続きます。
このことからも、脳梗塞後遺症の改善には上限がなく、回復し続けるといっても過言ではありません。
脳梗塞の再発防止に向けて
脳梗塞の後遺症について、すでに引き起こされている問題について対処することも重要ですが、治療後の健康状態を維持し、再発を防止することも重要です。
病院での集中的なリハビリ期間を終えて在宅復帰した維持(生活)期では、後遺症による障害と向き合い、低下した機能を補いながら生活していく代償的アプローチがメインになります。
脳梗塞を再発し障害が重度化する可能性もあるため、医療機関を離れたあとも、家庭内で食生活や生活習慣などを管理していかなければなりません。
リハビリによる脳梗塞後遺症の回復には上限がない
「リハビリを行うことで脳梗塞後遺症がどこまで回復するのか」ということについては、損傷部位の大きさや年齢、障害の重症度によって異なるため、一概には言えません。
しかし、早期発見・早期治療によって、脳そのものの回復が早ければ早いほど、後遺症の影響はほとんどないとされています。
「回復曲線」という脳の回復過程からも分かるように、発症から経過した日数によって回復速度は異なりますが、回復には上限がなく、6か月以降も変化が続くことが明らかになっています。