脳卒中後遺症である麻痺は理学療法によって改善するってホント?!

脳卒中とは、脳の血管が破裂したり、血流が詰まることで発症する病気の総称です。

医学の進歩により、脳卒中を発症しても一命を取り留められるケースが増えています。

しかし、その一方で、麻痺などの後遺症に悩む方が多く存在することをご存知でしょうか。

脳卒中後遺症がもたらす障害について、理学療法では『運動療法』や『物理療法』などの治療を行いますが、未だ麻痺そのものに対しての有効な治療法は確立されていません。

しかし、物理療法の一つである電気刺激療法では、電気刺激を麻痺部分の神経や筋肉に直接当てることで、麻痺や痛みを改善できることが明らかになっています。

今回は、麻痺とその治療について詳しくご紹介します。

目次

なぜ脳卒中によって麻痺が残るのか

なぜ脳卒中の後遺症として麻痺が出現するのかというと、以下のような理由により、神経細胞が損傷されることが原因として考えられます。

  • 脳出血では脳の神経細胞が出血によって圧迫される
  • 脳梗塞では脳の血管が詰まることで神経細胞に栄養が行き届かなくなる

脳の神経細胞が死滅もしくは損傷することで、脳から筋肉への運動指令が伝達されなくなります。

これにより、自分の意思で手足を動かせなくなる「運動麻痺」が引き起こされるのです。

麻痺によって引き起こされる身体の問題

脳卒中の後遺症である麻痺の出現によって起こる身体の問題について、ご紹介します。

筋肉の問題

麻痺によって手足を動かせず、長期間関節が同じ状態でいると、軟部組織である靭帯や骨格筋が壊死してしまいます。

軟部組織が繊維化してしまい、伸縮する動きが失われることで「拘縮(こうしゅく)」が起こります。

拘縮は、関節が硬くなることで動きが制限される状態であり、筋力の低下に繋がります。

身体の関節や筋肉の専門家である理学療法士が、関節可動域を確保する訓練を行うことで拘縮を予防することが大切です。

感覚の問題

麻痺がある状態では、感覚低下などの障害がみられます。

感覚低下によって起こる問題は、歩行や座位訓練の際に身体のバランスがとれなくなることです。

これは、麻痺側に体重が乗せられず、健側ばかりに体重が偏ってしまうことで起こります。

『無意識に』『意図せずに』起こる問題なのですが、言い換えれば『意識すれば』補うことができるのです。

実際に理学療法士のリハビリで指摘されたことがある人もいるかもしれませんが、『立つ練習』や『座る練習』の際に、全身が映る鏡を見ながら麻痺側へ体重を乗せるように意識を向けます。

これは、自主練習でも行うことができるので『身体が真っ直ぐになるように』鏡で確認してみてください。

片麻痺に対する理学療法プログラム

麻痺があると、人間が行う基本的な動作である『起き上がる・座る・立つ・歩く』などの動きに支障がでます。

個々の動作は、麻痺の重症度や身体的な特徴によって異なるため、理学療法士が個別に動作分析を行い、最適なリハビリプログラムを組み立てます。

理学療法による治療は、神経科学や筋肉の成り立ちなど、専門的な知識に基づいて行われるため、目的にあった効果を得られやすいです。

理学療法士が行う治療方法

理学療法には大きく分けて、以下の二つの治療方法があります。

  1. 運動療法
  2. 物理療法

その中でも、麻痺に対して理学療法士が行う治療について説明します。

運動療法

運動療法とは、身体機能の回復および障害を軽減するために行われる治療方法です。

麻痺の部位や重症度によって、治療内容は異なります。

実際に身体を動かして治療するため、麻痺によって影響を受けている問題点を動作分析から抽出し、それぞれに合う最適なプログラムを立案します。

物理療法

物理療法とは、物理エネルギーである「温熱」「寒冷」「電気刺激」などを直接患部に与えることで、以下のような生理的な変化がもたらされる治療方法です。

  • 血流の促進
  • 疼痛の軽減
  • 筋緊張の改善

脳卒中の後遺症である麻痺に対しては、一般的に低周波治療器による電気療法が行われます。

この治療方法の目的は、麻痺により動かなくなった筋肉に刺激を与えて、硬くなった筋肉をほぐすことです。

筋肉が柔らかくなると動きを引き出しやすくなるため、通常は運動療法の前に行われます。

物理療法は筋肉の状態を改善し、麻痺側の動きを最大限に引き出すことができる点で、運動療法の治療効果を高める有効な手段です。

電気刺激療法について

ここで、物理療法の一つである電気刺激療法について、さらに詳しく説明します。

麻痺に対する電気刺激療法の仕組みは、電気刺激を脳卒中によって損傷を受けた神経細胞や筋肉に与え、神経経路の賦活を促します。

電気刺激療法には、以下の二つが存在します。

  1. 機能的電気刺激
  2. 治療的電気刺激

機能的電気刺激は、デバイスを装着(もしくは身体に埋め込み)し、電気刺激を流すことで筋収縮や神経活動を促進させて、麻痺によって阻害された身体機能を代償します。

麻痺の重症度や経過観察により、麻痺が改善する見込みがないと判断された場合に、機能的電気刺激による治療を選択します。

機能的電気刺激は麻痺の代償的な治療であるのに対して、治療的電気刺激は麻痺の根本的な治療方法です。

リハビリを継続する中で、電気刺激を繰り返し与えて、麻痺や筋肉の異常の改善を図ります。

物理療法における神経の改善

神経細胞の損傷の程度によって回復の見込みは異なり、少しでも感覚機能が残存していれば、電気刺激により筋肉や関節が動く感覚を感じ取ることができます。

継続的に治療的電気刺激を与えることによって、神経細胞の働きに改善がみられれば、麻痺の筋肉を動かす感覚を認識できるようになります。

逆に言えば、治療がなければ神経細胞は退化してしまうので、神経の働きは回復できない恐れがあります。

物理療法や神経細胞については未だ解明されていない点も多々あるため、根気強くリハビリテーションに取り組むことが大切です。

麻痺は理学療法によって改善する可能性がある

今回は『麻痺の発症メカニズムから麻痺がもたらす問題』そして『それを改善させるための理学療法』についてご紹介しました。

理学療法の治療は、大きく分けて二つあります。

  1. 麻痺があることを前提に動作の改善を図る、運動療法
  2. 麻痺に直接電気刺激を与えて筋肉や神経細胞の働きを促進する、物理療法

いずれにしても、身体の動きや筋肉、神経科学など専門知識を有する理学療法士が評価を行い、個別に最適な治療プログラムを立案します。

リハビリは即効性のあるものではなく、日々の積み重ねによって効果が得られるものです。

物理療法については、未だ解明されていない点もあり、今後の研究に期待がかかっています。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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