脳梗塞を発症した方に対し、適切な理学療法をするためには評価が欠かせません。
医療機関ではさまざまな評価が採用されていますが、評価の概要や評価項目などについてよく知らないという方も多いでしょう。
そこで今回は、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の理学療法の評価に用いられる5つの評価の概要と内容を紹介します。
SIAS(サイアス)
SIASは、Stroke Impairment Assessment Set(脳卒中機能障害評価法)の頭文字をとったもので、1994年に開発された脳卒中による機能障害の評価法です。
以下に、SIASの機能分類と評価項目をまとめました。
分類 | 項目 | スコア |
1. 麻痺側運動機能 | 上肢近位テスト(膝・口テスト) | 0-5 |
上肢遠位テスト(手指テスト) | 0-5 | |
下肢近位テスト(股屈曲テスト) | 0-5 | |
下肢近位テスト(膝進展テスト) | 0-5 | |
下肢遠位テスト(足パットテスト) | 0-5 | |
2.筋緊張 | 上肢腱反射(上腕二頭筋、上腕三頭筋) | 0-3 |
下肢腱反射(膝蓋、アキレス腱) | 0-3 | |
上肢筋緊張 | 0-3 | |
下肢筋緊張 | 0-3 | |
3. 感覚機能 | 上肢触覚 | 0-3 |
下肢触覚 | 0-3 | |
上肢位置覚 | 0-3 | |
下肢位置覚 | 0-3 | |
4. 関節可動域 | 上肢関節可動域 | 0-3 |
下肢関節可動域 | 0-3 | |
5. 疼痛 | 疼痛 | 0-3 |
6. 体幹機能 | 腹筋力 | 0-3 |
垂直性テスト | 0-3 | |
7. 視空間認知 | 視空間認知 | 0-3 |
8. 言語機能 | 言語機能 | 0-3 |
9. 非麻痺側機能 | 非麻痺側大腿四頭筋筋力 | 0-3 |
非麻痺側握力 | 0-3 |
FMA(Fugl-Meyer assessment)
FMAは、Fugl-Meyer assessmentの頭文字をとったもので、1975年にヒューゲルメイヤーらが発表した機能障害の評価法です。
項目が多いため評価に時間がかかりますが、機能障害の細かい評価が可能です。
以下に、FMAの機能分類と評価項目をまとめました。
分類と項目 | スコア | |||
1.運動機能とバランス | ||||
上肢 | A.肩/肘/前腕 | Ⅰ.反射 | 0,2,4 | |
Ⅱ.共同運動 | a.屈筋 | 0-12 | ||
b.伸筋 | 0-6 | |||
Ⅲ.共同運動の混合3動作 | 0-6 | |||
Ⅳ.共同運動を脱した3動作 | 0-6 | |||
Ⅴ.正常反射 | 0-2 | |||
B.手関節5動作 | 0-10 | |||
C.手指7動作 | 0-14 | |||
D.強調運動 | 0-6 | |||
合計66 | ||||
下肢 | E.股/膝/足関節 | Ⅰ.反射 | 0,2,4 | |
Ⅱ.共同運動 | a.屈筋 | 0-6 | ||
b.伸筋 | 0-8 | |||
Ⅲ.座位2動作 | 0-4 | |||
Ⅳ.立位2動作 | 0-2 | |||
Ⅴ.正常反射 | 0-6 | |||
F.強調運動 | 0-6 | |||
合計34 | ||||
G.バランス7動作 | 0-14 | |||
合計14 | ||||
2.感覚 | ||||
H.感覚 | a.触覚 | 0-8 | ||
b.位置覚 | 0-16 | |||
合計24 | ||||
3.他動的関節可動域/関節痛 | ||||
J.他動的関節可動域/関節痛 | 可動域22ヶ所 | 0-44 | ||
運動時関節痛22ヶ所 | 0-44 | |||
合計88 |
JSS
JSSは、Japan Stroke Scaleの頭文字をとったもので、1997年に日本脳卒中学会が作成した脳卒中の急性期の重症度スケールです。
JSSで評価される機能は、以下のとおりです。
- 意識
- 言語
- 無視
- 視野欠損または半盲
- 眼球運動障害
- 瞳孔以上
- 顔面麻痺
- 足底反射
- 感覚系
- 運動系(臥位で評価)
急性期の重度スケールであるため、バランスや歩行の評価は含まれません。
また、関節可動域の評価も含まれていません。
mRS
mRSとは、modified Ranking Scaleの頭文字をとったもので、脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患障害の全体像の評価法です。
評価項目は、まったく症候がないから死亡までの7項目のみで少ないですが、素早く大まかな評価をするときに役立ちます。
以下に、mRSの評価項目をまとめました。
modified Rankin Scale | 参考にすべき点 | |
0 | まったく症候がない | 自覚症状および他覚徴候がともにない状態である |
1 | 症候はあっても明らかな障害はない:日常の勤めや活動は行える | 自覚症状および他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 | 軽度の障害:発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える | 発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日 常生活は自立している状態である |
3 | 中等度の障害:何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える | 買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を 必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、 トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 | 中等度から重度の障害:歩行や身体的要求には介助が必要である | 通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 | 重度の障害:寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする | 常に誰かの介助を必要とする状態である |
6 | 死亡 |
NIHSS
NIHSSは、National Institutes of Health Stroke Scaleの頭文字をとったものです。
アメリカ国立衛生研究所がrt-PA(静脈血栓溶解)療法の効果を判定するために開発、1989年に有効性が発表された脳卒中の評価スケールです。
脳梗塞の治療に用いられるrt-PA(静脈血栓溶解)療法では、日本脳卒中協会によりNHISSによる評価を適宜行うよう指針があります。
以下に、NIHSSの機能分類と評価項目をまとめました。
分類と項目 | スコア | |
1.意識 | a.意識水準 | 0-3 |
b.意識障害-質問 | 0-2 | |
c.意識障害-従命 | 0-2 | |
2.最良の注視 | 0-2 | |
3.視野 | 0-3 | |
4.顔面麻痺 | 0-3 | |
5.上肢の運動 | 上肢の運動(左) | 0-4 |
上肢の運動(右) | 0-4 | |
6.下肢の運動 | 下肢の運動(左) | 0-4 |
下肢の運動(右) | 0-4 | |
7.運動失調 | 0-2 | |
8.感覚 | 0-2 | |
9.最良の言語 | 0-3 | |
10.構音障害 | 0-2 | |
11.消去現象と注意障害 | 0-2 |
脳梗塞の状態に合わせた理学療法の評価をしよう
今回は脳梗塞発症後、理学療法で用いられる評価項目を紹介しました。
評価の種類によって項目が異なるため、脳梗塞の発症時期や体の状態に合わせて、どの評価を用いるのが適切なのか検討することが重要です。
適切な評価をすることで、脳梗塞発症後の身体機能を客観的に判断でき、医療従事者間で情報共有ができます。
そして個々に合ったリハビリプランを考え提供できるため、患者さんの機能回復が期待できます。