廃用症候群を予防しよう

入院前は一人で生活する力があったのに、退院したら誰かの手助けがないと生活するのが難しい状態になった、といった話を聞いたことはないでしょうか?

なぜ病気が治ったのに、入院前の生活に戻ることができなくなってしまうのでしょうか?

それはもしかしたら、廃用症候群が原因かもしれません。

廃用症候群とは何か、また廃用症候群の予防や対策についてお伝えしていきます。

目次

廃用症候群とは

廃用症候群の特徴

廃用症候群は、病気や怪我により長期間に渡って安静が続くことによって引き起こされる、身体面や精神面でのさまざまな機能低下のことです。

脳梗塞や下半身の骨折などは、長期間の入院を要します。

脳梗塞で半身麻痺が出現した場合や骨折している場合などは、動きたくても動けないこともあります。

こういった病気では、特に、廃用症候群を引き起こしやすくなります。

廃用症候群は、脳梗塞や骨折のみに留まらず、他の疾患の場合でも起こる可能性があります。

また、入院していなくても、ベッドで寝たきりの時間が長い人は、廃用症候群を引き起こします。

1週間の安静で、人間の筋力は15%ほど低下すると言われています。

さらに安静期間が長くなっていくと、筋力もそれに伴い、さらに低下していきます。

筋力が低下すると、歩いたり動いたりするのが辛くなります。

辛いからといって、歩いたり動いたりしなくなると、さらに筋力は低下し、どんどん動けなくなっていく悪循環が生まれてしまいます。

特に、高齢者はもともと加齢による身体機能の低下がありますから、若い方よりも廃用症候群を引き起こしやすい状況にあります。

廃用症候群の症状

廃用症候群の症状として、筋力の低下や関節の拘縮(関節の可動範囲が狭くなってしまうこと)がよく挙げられますが、それだけではありません。

循環血液量の低下

安静が続くことで、循環血液量は少なくなります。

循環血液量が低下すると、血栓(血管の中に発生する血の塊)ができやすくなります。

血栓ができると、肺塞栓症などを起こしやすくなります。

咳をする力の低下

呼吸に必要な筋肉も硬くなっていくので、咳をする力が弱くなっていきます。

その結果、気道内に分泌物が溜まりやすくなり、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。

水分摂取量の減少

動かないと、食欲も湧きませんし、水分を摂る量も減ってしまいます。

そうすると、必要な栄養が摂れず、病気の回復が遅れてしまいますし、便秘も引き起こします。

寝たままの体勢により、尿路感染症や尿路結石を引き起こしやすくなります。

皮膚への影響

皮膚への影響も生じます。

同じ姿勢が続くことにより、皮膚への負荷が大きくなり、褥瘡(床ずれ)を引き起こします。

上記のように、筋骨格系の障害、循環器系の障害、呼吸器系の障害、消化器系の障害、泌尿器系の障害、皮膚系の障害が、廃用症候群の身体面の症状として現れることがあります。

精神面への影響

さらに、入院による環境の変化や、病気による自分の体の変化に対応できず、うつ状態になったり、認知機能が低下したりします。

こういった症状も、廃用症候群のひとつです。

身体症状だけでなく、精神面でも症状が現れることがあります。

廃用症候群の予防法・対処法

病院での廃用症候群の予防法

脳梗塞を発症した場合は、すぐにリハビリが始まります。

昔は「脳梗塞を発症したら安静に」と言われていましたが、近年はすぐにリハビリを開始した方が、後遺症も軽くなることがわかってきました。

リハビリには、麻痺に対して行う機能回復訓練もありますが、廃用症候群の予防もあります。

ストレッチなど、まずはベッド上でできることから始め、車いすに乗ったり立ち上がったりと、徐々に離床を進めていきます。

また、病院では年齢や体格に合わせて、マットレスを変更しています。

これは廃用症候群による、皮膚系の障害を防ぐためです。

人間は、使える筋肉を使わないと、どんどん筋力が衰えていってしまいます。

衰えた機能を元の状態に戻すのは非常に困難なため、廃用症候群は予防が重要になります。

入院してすぐというのは、まだ自分の病状の変化に戸惑っているころですし、リハビリを頑張ろうという気持ちにはとてもなれないかと思います。

しかし、この時期の努力は、後々自分を楽にさせてくれます。

リハビリの内容は、患者さんの病状によって個々で異なりますが、例えばベッド上でお尻を上げたり足を上げたり、車いすに乗って足ふみをしたりします。

そんなことわざわざやらなくてもできるよ、と思うだけでは体は動かなくなっていきますので、しっかりリハビリに取り組んでいきましょう。

病状にもよりますが、人工呼吸器を装着していても、廃用症候群の予防のためリハビリを行うことがあります。

それだけ早期のリハビリが大切だということですね。

病院に入院した際は、患者さんがもともと家でどのような生活を送っていたのか、また退院するときにはどの程度まで自分で行動できればよいのかを、病院の先生としっかりと話し合っておいてください。

病院は病気を治すところですから、基本的には病気が治れば退院です。

話し合いができていないと、退院してから生活できないということになりかねません。

病気の種類によっては、廃用症候群に対するリハビリが行えることもあります。

リハビリをしてから退院になるのか、リハビリはできないのかを確認しましょう。

退院時の体の状態が絶対に入院前のときに戻るとは限りませんので、退院後は入院前と同様の住宅環境でよいのかを見直していく必要があります。

病院の先生・リハビリの先生・ソーシャルワーカーなど、退院後のことについて相談しましょう。

自宅での廃用症候群の予防法・対処法

廃用症候群は予防することが重要ですが、すでに廃用症候群になってしまっていても、対処をすることで介護者の負担が減るなどメリットがあります。

できることは、できるだけ自分で行ってもらうようにしましょう。

デイサービスなどに通うことも、廃用症候群の予防や対処になります。

家の外に出ることは、身体的にも精神的にもプラスになります。

家の外にはさまざまな刺激がありますので、家に引きこもらず、外に出ましょう。

ストレッチや散歩などで体をしっかりと動かしましょう。

外出の難しい方は、できるだけ家の中でベッドから離れる生活を送るよう心がけましょう。

そして体を動かすために、バランスのとれた食事をしましょう。

特に肉や大豆などのたんぱく質を多く摂るように心がけましょう。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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