脳卒中による麻痺は、リハビリなどの理学療法がポイント。急性期と回復期の過ごし方。

脳卒中の代表的な後遺症のひとつに、麻痺が挙げられます。

現在の脳卒中治療におけるガイドラインでは、脳卒中を発症してからすぐにリハビリや理学療法などを行うことで、回復の見込みがあるとされています。

今回は脳卒中を発症した後の急性期と回復期に推奨されるリハビリや理学療法について、ご紹介します。

目次

脳卒中による麻痺が生じる理由

脳卒中は、以下の3つの病気の総称です。

  1. 脳梗塞
  2. 脳出血
  3. くも膜下出血

いずれの病気も、脳の中の血管がなんらかの要因によって詰まったり破れたりすることによって発症します。

脳内の血管が詰まったり破れたりすると、その部分の脳細胞の機能に影響を及ぼしたり、最悪の場合は脳細胞の壊死につながります。

その結果、脳梗塞を発症した部分の脳細胞が司っている身体機能に影響が残ります。

これが、いわゆる麻痺と呼ばれる状態です。

脳卒中の後遺症である麻痺の特徴

脳卒中の後遺症としての麻痺は、脳のどの部分が損傷を受けたのかによって、麻痺が出現する部分が異なります。

一般的には、以下のように運動麻痺が出現するとされています。

脳卒中が脳の左半分かつ前頭葉部分で生じた場合右半身
脳卒中が脳の右半分かつ前頭葉部分で生じた場合左半身

また、頭頂葉で生じた脳卒中は感覚麻痺の原因となりやすく、運動麻痺と同様に脳の左側が損傷を受けると右半身に、脳の右側が損傷を受けると左半身に麻痺が出現する傾向になります。

脳卒中後の麻痺には、迅速なリハビリや理学療法を

以前の日本では、脳卒中後はなるべく安静にしておき、リハビリや理学療法に関しては症状が落ち着いてから行うべきとの考えが主流でした。

しかしながら、現在では脳卒中に関する研究が大きく進んでおり、脳卒中発症から2週間までの「急性期」、そして脳卒中発症後2週間から約3〜6か月までの「回復期」にリハビリを開始することが推奨されています。

急性期および回復期は、脳が脳卒中によるダメージから自身の神経ネットワークを修復しようとしている期間に該当します。

そのため、この期間中にリハビリや理学療法を取り入れることで、脳卒中の後遺症としての麻痺を大きく軽減できると考えられています。

2008年に日本リハビリテーション医学会で発表された研究によると、脳卒中の発症から7日以内にリハビリを開始した場合と急性期リハビリを行わなかった場合では、急性期リハビリを行った場合の方が退院率が高く、また死亡率も低いという結果か明らかになっています。

脳卒中急性期治療とリハビリテーション(北川泰久著)(国立研究開発法人 科学技術振興機構)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/46/5/46_5_297/_pdf

脳卒中の急性期に行うべきリハビリや理学療法

脳卒中の発症後から2週間後までの「急性期」は、十分なリスク管理が行われている医療施設内でリハビリを行うことが推奨されています。

具体的には、脳卒中を発症して24時間から48時間以内には、寝返りや座位、セルフケア訓練(衣類の着脱など)といったリハビリを開始します。

まずはベッドの上でできるリハビリから開始して、その後に立位や装具を用いての早期歩行訓練、摂食・嚥下訓練などを、容態を鑑みた上で順次実施していきます。

ご家族の中には「倒れたばかりなのに、こんなに急にリハビリを開始していいの?」と不安に思われる方もいらっしゃいます。

しかし、この期間にどれだけリハビリを行うことができたかによって、その後の生活の自立度に影響が出ます。

医師の判断に従い、必要なリハビリや理学療法を積極的に行いましょう。

脳卒中リハビリテーションガイドライン(日本脳卒中学会)
https://www.jsts.gr.jp/guideline/283_286.pdf

脳卒中の回復期に行うべきリハビリや理学療法

脳卒中の発症から2週間が経過して血圧や症状が落ち着いてくると、脳卒中の回復期に行うべきリハビリへと移行します。

病院によってはリハビリ病棟などに移動して、退院後の日常生活が自立したものになることを目指したリハビリを行っていきます。

具体的には、理学療法士や作業療法士による基本動作や日常動作の訓練、また応用動作として手芸や工作などを取り入れる場合もあります。

さらに、感覚麻痺には、必要に応じて電気療法やマッサージなどの理学療法を取り入れて、麻痺の改善や筋力の回復を促したりします。

必要に応じて、言語聴覚士による口や顔回りの訓練、食事を飲みこむための嚥下訓練なども行うことで、退院後の自立した生活、また生活の質(QOL)の向上を目指していくことになります。

脳卒中リハビリテーションガイドライン(日本脳卒中学会)
https://www.jsts.gr.jp/guideline/289_290.pdf

脳卒中の麻痺に対するリハビリや理学療法は、医師の指示に従いましょう

脳卒中は、脳の血管になんらかの異常が生じる病気です。

身体に大きな負担がかかる病気であり、術後は血圧や容態、また脳卒中を発症した部分の経過観察などが非常に重要になってきます。

急性期や回復期のリハビリは、医師の知見による方針に基づいて、指示通りの内容で行うことが重要です。

自己判断でリハビリや理学療法を行わなかったり、また必要以上にリハビリや理学療法に励んでしまうと、術後の容態急変や、脳卒中の後遺症の悪化などといった事態を招きかねません。

医師の指示に従って、正しくリハビリや理学療法を取り入れましょう。

退院後の維持期はどのように過ごす?

脳卒中後の急性期や回復期に適切なリハビリを行い、麻痺の影響をとどめることができると、いよいよ退院です。

退院後は、自宅で生活を送る「維持期」となります。

維持期においても、適度に散歩や軽い運動などに取り組み、なるべく日常動作についても自分自身の力で取り組むことが推奨されています。

必要に応じて、クリニックの外来や、介護保険を利用したリハビリ施設などを利用して、安全な場所で身体を動かすリハビリや理学療法を継続していきましょう。

脳卒中の後遺症による麻痺は、早めのリハビリと理学療法で対応を

脳卒中の後遺症による麻痺に対しては、早期のリハビリと理学療法が必要であることが分かっています。

脳卒中の発症後、なるべく早く適切なリハビリや理学療法を行うことは、麻痺などの後遺症の残り方に大きな影響を与え、日常生活に復帰できるかどうかを左右します。

脳卒中を発症した部位や予測される麻痺の影響などをしっかりと医師から説明してもらい、必要なリハビリや理学療法に取り組み、日常生活への復帰を目指していきましょう。

この記事を書いた人

脳梗塞・脳出血などの脳血管障害は、65歳以上が要介護の状態になる原因の1位(厚生労働省調べ)であり、脳卒中患者のQOL向上の一助となることを目指し、基礎知識・予防・リハビリ情報をお届けするWEBマガジンです。

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