脳梗塞の後遺症として身体の麻痺が出ることがありますが、麻痺のある部位に痙縮、拘縮といった状態が生じることがあります。
痙縮(けいしゅく)、拘縮(こうしゅく)と読みます。
手や足が動かしにくいと感じるときは、痙縮・拘縮かもしれません。
それぞれがどういった状態なのか、また治療法はあるのかなどについて、解説していきます。
痙縮とは
痙縮(けいしゅく)は、脳梗塞などの後遺症としてみられる、運動障害のひとつです。
筋肉の緊張が高まることにより、手足を動かしづらかったり、勝手につっぱったり曲がったりします。
具体的には、以下のような症状が見られます。
・手の指が握ったままとなり開きにくい
・肘が曲がる
・足先が足の裏側の方へ曲がってしまう など
拘縮とは
痙縮による異常姿勢が続くと、筋肉が固まって、さらに関節の運動が制限された状態になります。
この状態のことを、拘縮(こうしゅく)といいます。
痙縮・拘縮が日常生活に及ぼす影響
痙縮・拘縮を引き起こすと、日常生活に支障が出る場合があります。
先ほど挙げた3つの症状が、日常生活にどんな影響を及ぼすのか、例を挙げていきます。
手の指が握ったままとなり開きにくくなる
手洗いもしにくいですし、爪も切りにくくなります。
また以下のような問題が生じます。
・爪が手のひらに食い込み、傷をつけてしまう
・指の間がムレてしまうので、皮膚障害を起こしやすくなる
・清潔が保たれにくく、感染症などを引き起こしやすい など
肘が曲がったままになってしまう
以下のような問題が生じます。
・更衣がしにくい
・また更衣の際に痛みが生じる
・肘が人や物にぶつかってしまう など
足先が足の裏側の方へ曲がってしまう
以下のような問題が生じます。
・歩行時に痛みを感じる
・バランスを崩しやすく、転倒しやすい
・装具がつけにくい など
痙縮・拘縮の治療
痙縮・攣縮の治療により期待できる効果
痙縮・拘縮は治療することができます。
治療により、以下のような効果が期待できます。
・日常生活がしやすくなる
・リハビリテーションがしやすくなる
・痛みが軽減する など
その結果、ご家族の介護負担が軽減されることもあるでしょう。
痙縮・拘縮の治療とは
痙縮・拘縮の治療には、内服薬・ボツリヌス療法・神経ブロック療法・外科的療法・バクロフェン髄注療法などがあります。
内服薬
筋肉の緊張を和らげる働きのある薬を服用します。
ボツリヌス療法
ボツリヌストキシンという薬を注射します。
ボツリヌストキシンとは、ボツリヌス菌が作り出す、たんぱく質のことです。
ボツリヌス菌というと、食中毒を想像されるかもしれませんが、ボツリヌス菌を直接注射するわけではないので、ボツリヌス菌には感染しません。
神経ブロック療法
筋肉を緊張させている神経に注射し、神経の伝達を遮断します。
外科的療法
筋肉を緊張させている神経を、部分的に切断したり、神経の太さを縮小したりする手術です。
バクロフェン髄注療法
ITB療法とも呼ばれます。
バクロフェンという薬の入ったポンプを腹部に埋め込み、薬を脊髄周辺に直接投与します。
バクロフェンは、痙縮・拘縮を緩和する薬です。
痙縮・拘縮の予防
痙縮・拘縮の予防のポイント
拘縮の予防は「しっかりと関節を動かすこと」が一番です。
強引に関節を動かしてしまうと、筋緊張が高まり、痙縮・拘縮の原因となります。
特に寝返りに介助を要する方など、自分自身で身体を動かすのが難しい方は、ゆっくりと触る・動かすように心がけましょう。
介助を行う前に声をかけることも、有効な対策のひとつです。
注意点として、一人一人身体の状態は異なるので、自己判断で予防をすることは避けましょう。
リハビリの先生や主治医としっかり相談してから、痙縮・攣縮の予防を行いましょう。
リハビリのときだけでなく、毎日継続して関節を動かすことが大切です。
痙縮・拘縮を防ぐポジショニング
介護度の高い方、特に自力での体位変換が難しい方は、痙縮・拘縮を防ぐ上で、姿勢の整え方が重要になります。
関節の拘縮を最小限にすることを目的とし、安定した姿勢をとるための方法を「ポジショニング」といいます。
ポジショニングを行うことで、褥瘡(床ずれ)の防止にもなります。
・体位変換とともにポジショニングを行いましょう。
・声掛けをしながらゆっくりと動かしましょう。
・身体とベッドになるべく隙間がなくなるよう、しっかりと密着させ、身体を安定させましょう。
・クッションやバスタオルなどを隙間に入れると、よりよいでしょう。
このとき、足の間などに無理にクッションなどを入れないようにしましょう。
強い力で行ったり、無理に行ったりすると、筋肉が緊張してしまい、逆に拘縮を進めることがありますので、注意してください。
痙縮・拘縮を防ぐ便利グッズ
痙縮・拘縮を防ぐための便利なグッズがあります。
手袋のような形をしたサポーターであったり、ハンドキーパーといって手の形をしたような握るタイプのグッズなどがあります。
これらは、介護用品店やインターネット上で購入することができます。
予算が厳しい方や、個人に合わせたものを作りたい方は、ハンドメイドで作ることもできます。
作り方に決まりはありませんが、使用する布地は、繰り返し洗って、清潔に使えるものがよいと思います。
通気性がよく、洗いやすい綿生地がお勧めです。
例えば、市販の手袋(軍手など)にビーズクッションを入れ、手袋の口を縫うだけで完成しますので、ぜひ作ってみてください。
痙縮・拘縮予防グッズを手作りする際の注意点
グッズを手作りする際には気をつけていただきたい点が、2点あります。
1点目は「安全なものを作ってほしい」ということ、2点目は「清潔を保てるものを作ってほしい」ということです。
安全なものとは?
1点目の「安全なもの」というのは「誤飲しないもの」という意味です。
先ほどお伝えした簡単に制作できるグッズの場合、手袋の口の縫い方が甘いと、中のビーズクッションが出てきてしまいます。
もしそれを誤って食べてしまったとしたら…恐ろしいですよね。
また、口に入るようなサイズの小さめのグッズを作った場合も同様に、誤飲してしまったら…。
そもそも異食行動(食べ物以外のものを口に運んでしまう行動のこと)がある方に、このようなものは向きませんが、口に入らないようにしっかりと対策をしておくことは重要です。
清潔を保てるものとは?
2点目の「清潔を保てるもの」というのは「繰り返し洗って清潔に使えるもの」という意味です。
痙縮・拘縮は、皮膚トラブルを引き起こす原因となるわけですから、不潔なグッズを使っていると、雑菌が繁殖してしまい、皮膚トラブル予防の意味がありません。
グッズはこまめに洗っていただくとよいかと思います。
どんなものを作るかにもよりますが、ビーズクッションなどが入っている場合は、洗濯機で洗うと洗濯機が壊れる原因となりますので、手洗いがよいかと思います。
洗えないビーズクッションもありますので、表示をよく確認してから行うようにしてください。