脳梗塞と記憶障害
脳梗塞の症状にはさまざまなものがありますが、手足の麻痺や歩行障害など、他人がみたらひと目で分かるものもあれば、そうではない症状もあります。
見た目では分からない症状、それが「高次脳機能障害」と呼ばれる症状です。
注意障害や遂行機能障害、記憶障害などがあり、社会復帰の壁となることが多い症状です。
記憶障害は、高次脳機能障害のなかでも発生頻度が高い症状で、脳卒中の患者さんの40%程度に残存すると言われています。
日常生活を送る上で覚えるべきことを記憶できないため、自立した生活ができない原因となります。
脳梗塞になるとなぜ記憶障害を起こすのか?
脳には、複数の記憶のメカニズムがあります。
脳梗塞による記憶障害で、主に原因となるのは「海馬(かいば)」と呼ばれる場所です。
海馬は、血流が足りない状況に弱く、損傷を受けやすいです。
日常的な出来事や勉強して覚えた事柄は、海馬を通して記憶されたあと、大脳に蓄積されます。
そのため、新しい記憶は海馬に、古い記憶は大脳皮質に残ります。
脳梗塞の記憶障害では、昔のことは覚えているのに、最近のことが覚えられないといった症状がしばしば見られます。
記憶障害は、ときに認知症の症状と近いため「血管性認知症」と認識されることがあります。
血管性認知症では、脳の認知機能全般が障害されるアルツハイマー型認知症と異なり、記憶障害が目立つものの、判断力や専門知識は保たれるなど、まだらな状態が特徴的です。
脳梗塞による記憶障害の症状と一般的な経過
脳梗塞による記憶障害では、新たなことを覚えることが難しくなります。
そのため、以下のような症状が出現します。
・物の置き場所を忘れる
・新しいできごとが覚えられない
・同じことを繰り返し質問する など
脳梗塞では、発症後2週間までを急性期、6ヶ月までを回復期、それ以降を生活期・維持期などと呼びます。
脳梗塞の症状は、急性期に最も強く、回復期にある程度回復し、それ以降は残存する後遺症となります。
記憶障害も例外ではなく、意識障害が起こるほどの脳梗塞では、必ず起こる症状とされています。
回復期には一定の改善が見られるものの、全体の40%の患者さんで生活期に残存する後遺症となります。
もし家族が脳梗塞、記憶障害になってしまったら?
日本では年間約30万人の方が、脳卒中を発症しています。
私たち自身や、私たちの家族が脳梗塞になってしまうことだって、十分ありえることなのです。
脳梗塞による高次脳機能障害を発症すると「今までできたことができない現実」と向き合わなければなりません。
家族を含めて、他人から見て気づきにくい症状であるため、本人にとっては自尊心を傷つけられる、とてもつらい症状です。
もし家族が脳梗塞による記憶障害になってしまったら、まずそのことを認識する必要があります。
脳梗塞による記憶障害は、次に紹介するリハビリテーションなどを行うことで、回復期まで一定の回復を見込むことができます。
ただし、リハビリテーションは長い時間と根気を必要とする、大変な作業です。
家族として、記憶障害の病状を理解し、支えてあげたいものです。
脳梗塞による記憶障害のリハビリテーション
脳梗塞による記憶障害のリハビリテーションは、大きく分けて「要素的訓練」と「代償訓練」があります。
要素的訓練は、記憶障害そのものの症状を改善しようとする訓練です。
ドリルなど、机の上で記憶の訓練を行うことで、徐々に記憶の能力を取り戻していきます。
もしお子さんがいる家庭であれば、お子さんの教材を一緒に学ぶなども、効果的かもしれません。
代償訓練とは、記憶が難しいのであれば、別の方法を使うことで、日常生活や目的のある作業を実践していく訓練です。
具体的には、以下の方法があります。
・メモ帳を活用する
・工程表を掲示しておく など
こういった外的補助手段の活用を習得できれば、社会生活の質を向上させることができるという、はっきりとした研究結果があります。
発症前にメモなどを利用していた方は、より効果が得やすいという意見があります。
脳梗塞発症後、早いうちに適切な治療を受けることで、治療効果を高めることができると考えられます。
まとめ
脳梗塞の後遺症としての記憶障害について、解説しました。
記憶障害は自覚しづらく、思ってもみないようなトラブルを引き起こす可能性があります。
本人の様子をよく観察し、早期に治療介入できるようにしましょう。